【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
「ダメだよ田中くん! 傷引っ掻いたら痕になっちゃう」

「え? あ、なんかムズムズして……無意識にかいてた」

「ちゃんと消毒しないと」

「大丈夫だよ、もう血も固まって来たし」


 確かに滲んでいた血は固まっているし、大したことのない傷かもしれない。

 でも、田中くんのすべすべな綺麗な肌に傷が……。

 そう思うと何だか悲しくなった。


「そうだ。じゃあさ、昨日やってくれたおまじないやってよ」

「え?」

「花、くれただろ?」


 私があんまりに悲しそうな顔をしてたからかな?

 田中くんは昨日の花のおまじないをしてと言う。


「むず痒い痛みが消えたら引っ掻かないと思うしさ。頼むよ」

「……うん、分かった」


 傷を気にする私を気遣ってくれたんだろうな。

 花のおまじないはいつも痛みが消えたって言ってもらえるけれど、結局のところは私の自己満足だもん。

 その自己満足に付き合ってくれるなんて、本当に田中くんは優しい。

 そんな彼の優しさにキュンとしながら、私はすぐそばで力強く咲いているタンポポに手を添えた。


「力を貸してね」


 タンポポにお願いして、プチッと手折る。

 そっと両手で包むように持って、田中くんに向き直った。
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