【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
「田中くんのケガが治りますように」


 するとふわっと花の香りが強くなる。

 花が私のお願いを聞いてあげるってお返事してくれているみたい。


「さ、どうぞ」

「ありがとう、浜田さん」


 花を受け取ってくれた田中くんは、深呼吸して花の香りを吸い込む。

 息を吐き出した頃には何だか安らいだ表情をしていたから、むず痒さは治まったのかもしれない。

 なんてホッとしたのに、田中くんは制服の袖で傷口をグイッと拭ってしまった。


「え⁉ 田中くん? だから、そんなことしたら傷痕が――え?」


 傷痕が残るって注意しようとしたのに……。

 拭われた田中くんの頬には傷らしい傷が無かった。

 拭ったから全体的にちょっと赤くなっているけれど、確実にあったはずの切り傷が痕すら残らず消えているんだもん。

 私はビックリして目をまん丸に見開いた。


「ああ……やっぱり治ってる。すげぇ……」


 私は驚いているのに、治った本人は指先で傷がないか確認しながら感嘆の声を上げている。

 どうしてかは分からないけれど、田中くんはこうなることを予測していたみたい。


「え? え? なに?」


 私が花をあげて傷が治った?

 まさか、ありえない。

 そう思うのに、今の流れで田中くんのケガが治る原因が他にあるとも思えなくて混乱する。
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