【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
 夢、じゃないよね?


 信じられないけれど、ちょっと痛いくらいギュッと手を掴まれていて……。

 その手の熱もしっかり私に伝わっていて……。

 田中くんの眼鏡の奥のこげ茶色の目には、私の顔が映っていて……。


 夢じゃないんだって、やっと思えた。


「……私で、いいの?」

「浜田さんだからいいんだ」

「っ!」


 釣り合わないんじゃないかっていう最後の不安も、即座に吹き飛ばしてくれた田中くん。

 そんな彼への返事なんて、もう決まってる。


「私っ、私も、田中くんが好き。初めて会ったときから好きで、でも釣り合わないんじゃないかって思って……」


 私だから良いと言ってくれた田中くんに、私もちゃんと伝えたい。

 感極まって言葉が詰まってくるけど、なんとか続けた。


「でも、昨日たくさん話せて……やっぱり好きだって……もっと好きになっちゃったって思って……」

「浜田さん……」

「だからっ……嬉しい。私を……田中くんの彼女にしてください」


 嬉しすぎて涙が滲んできたけれど、ちゃんと最後まで言えてホッとする。

 安心しちゃって、ふにゃあっと力の抜けた笑顔を浮かべちゃった。


「っ!」


 すると、何故か田中くんがピシッと岩みたいに固まってしまう。

 掴まれている手も全く動かなくて、何か変なことでもしちゃったかな? と不安になった。
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