【短編】隣の席の田中くんにはヒミツがある
不調な田中くん
 シャーペンが空中で止まったこと、授業が終わったらすぐに聞こうと思っていた。

 けれど、私がモタモタしている間に田中くんはいつものように人に囲まれてしまう。


「あ、あの……」

「ねえ! 田中くん、ここ教えて? さっきの授業よく分からなくて」

「あ、俺も! こっちも教えてくれよ!」

「……」


 鉄壁の人垣に阻まれて声すら届かない。

 まあ、私の声も小さいからなんだけど……。

 でもこの人垣をかいくぐってまで聞くことも出来なくて、私は今聞くことを諦めた。


 ああ……どうして私ってこんなにどんくさいんだろう。

 軽く自己嫌悪してしまう。

 私のこういうところをふわふわしているなんて表現をする奈美ちゃんは優しすぎだよ。

 トホホ……としょんぼりしながら、その後は田中くんに話しかけるチャンスをうかがっていた。


 ……。

 ……うかがっていたんだけれど。

 結局話しかけるチャンスを掴めないまま一日が終わって、次の日になってしまう。


 ……いや、チャンスなさ過ぎ!

 もうちょっと頑張ろうよ私!


 日をまたぐとは思っていなかったから、流石に自分にツッコミたくなる。

 でも時間が経つにつれてあれはやっぱり気のせいだったんじゃないかなぁと思ったり……。

 でもでも、田中くんにヒミツって言われたのは夢とは思えないし……。
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