溺愛甘々トライアングル
第七話



   ☆第七話☆



〇朝妃の部屋。夜7時。

ベッドで仰向けになり、アイドル部の入部届の紙を見つめる朝妃。



朝妃「私が……アイドルなんて……」



〇朝妃の回想

放課後の校舎横に立つ朝妃が、入部届を渡された時のこと。

朝妃の隣に璃音もいる。


朝妃「アイドル部に入って、何をすればいいの?」

女子「文化祭のステージで歌って踊るだけです。一回だけです」

朝妃「私が全校生徒を前にして、ステージに立つってこと? 無理だよ、恥ずかしすぎだもん」

女子「朝妃様が出たら、みんなが集まります。そしたらアイドル部の部員募集の宣伝になるんです!」

朝妃「そんなと言われても……」



朝妃(えっ? 土下座?)



地面に土下座までする女子に、朝妃がタジタジ。


女子「廃部の危機なんです! それを救えるのは、今や男子にも女子にも大人気の朝妃様しかいないんです! お願いします! 助けてください! この通りです!」

朝妃「わわわ……わかったから。アイドル部に入るから……顔をあげてよ」



うれし涙を浮かべ、朝妃に抱き着く女子。



女子「ありがとう~ございます! 朝妃様がイケメンなマリア様にしか見えないです!」



男顔のマリア様を想像する朝妃。



朝妃(それって……誉め言葉かな?)


朝妃は苦笑いを浮かべる。

(回想終了)




〇現在。朝妃の部屋。

ベッドに寝転ぶ朝妃。

入部届を置き、可愛いウサギの抱き枕をギューッと抱きしめる。



朝妃(私がアイドル活動をしたら……余計勇大に嫌われちゃうのかな……)



泣きそうな顔で、朝妃は抱き枕に顔をうずめる。



朝妃「微笑んでもらえない関係なんて嫌だよ……幼稚園のころから大好きなのに……」



涙をこぼしながら、過去を思い出す。

①不機嫌顔の勇大に、朝妃が無視されたときのこと。

②勇大と麗華が話しているときのこと。

苦しすぎる朝妃。



朝妃「このままじゃダメだ!」



失恋の痛みをこらえるように唇をかみしめ、朝妃はベッドで上半身を起こす。

覚悟を決めたような顔で、階段を駆け下りる朝妃。

玄関前の廊下でアイスバーを食べている、無表情の妹とすれ違う。



妹「おねえ、どこ行くの?」



朝妃は妹に気づいてもいない。慌てるように玄関から飛び出す。



朝妃「勇大への気持ちを、なかったことにしたくないよ。10年以上も温めた恋心、ちゃんと伝えたいから!」



庭から道路へ出てみた。道路に立つ勇大を発見。

朝妃は駆け寄ろうとするも、見たくない光景が目に入り、足を止め塀に隠れる。


道路に止まる一台の車。

開いたままの後部座席のドアから、麗華が出てきた。


歩道に立つ勇大の首に手をまわし、抱き着きながらキスをする麗華。

ふれるようなキスの後、麗華が勇大から離れる。


運転席に乗る麗華の兄(顔は見えない)が、呆れ声を出す。



麗華兄「妹のキス現場なんて、見たくないんだけど」

麗華「私たちの恋を邪魔するなら、お兄ちゃんのこと一生無視するから」

麗華兄「酷いなぁ。学校に迎えに行って、彼氏のおうちまで送ってあげたのに。勇大君、ワガママな姫だけど麗華のことよろしくね」

勇大「ちゃんと大事にします」

麗華兄「約束ね」



勇大が麗華を好きだという証拠を、瞳に映してしまった朝妃。

悲しみの涙が止まらなくて、口元を手で押さえながらしゃがみ込む。



麗華と麗華兄の乗った車が去っていった。

勇大は家に入ろうと、道路から勇大の家の庭に。

その時、隣の家の庭で、塀にもたれしゃがんで泣いている朝妃を見つける。

驚きで、目を見開いて固まる勇大。



勇大「なんで……こんなところに……」



朝妃に駆け寄ろうと勇大は自分の家の庭を出た。

朝妃の家の庭に入ろうとする。でも……



朝妃「(泣き叫ぶように)来ないで!」



朝妃の家の庭に入る手前、塀の前で勇大の足が止まる。

高い塀があり、勇大から塀の向こうでしゃがみ込む朝妃の様子は見えない。



朝妃「(しくしく泣きながら)本当に……付き合ってるんだね……」

勇大「(不愛想に)悪いかよ?」

朝妃「別に……勇大の人生だもん。幼馴染が口出ししちゃダメなことくらい……わかってるから……」

勇大「じゃあ、なんで泣いてるわけ? 朝妃が泣く理由なんて、どこにもないだろうが!」

朝妃「(シュンとした声で)あるよ……」

勇大「(怒鳴りながら)どうせその理由も、俺には言わないんだろ? 璃音には何でも話すくせに……。マジで仲いいもんな、オマエら」

朝妃「……璃音君は……私の気持ちをわかろうとしてくれるから」

勇大「ほらやっぱり、変わったのはオマエの方だ! 男の恰好をしてた時の朝妃は、俺が何を言っても言い返す鋼メンタルの持ち主だっただろうが!こんなメソメソ泣く奴じゃなかっただろうが! 最近の朝妃を見てると、マジでムカつくんだよ。学校で大人気の王子様にチヤホヤされて、朝妃の脳みそまでお姫様仕様に変えられちゃったんだろうな」



数秒間の沈黙の後、朝妃の怒りが爆発。

しゃがみ込んでいた朝妃が立ち上がって、勇大の方を向く。



朝妃「(泣き叫ぶように)そうだよ、私は変わっちゃったんだよ!」

勇大「……」

朝妃「(やけくそになりながら)幼馴染や親友じゃ満足できないの。女として見てもらいたい、可愛いって思ってもらいたい願望が、抑えきれなくなっちゃったの!」

勇大「(呆然としながら)オマエ……何を言ってるわけ?」



止まらない涙を手でぬぐいながら、朝妃は勇大に気持ちを伝える。



朝妃「幼稚園のころからなの……ずっと大好きだったの……勇大のこと……」

勇大「……えっ?」



予想外の告白に、驚きで固まることしかできない勇大。



朝妃「勇大が女は嫌いだって言うから、私は男の子っぽくしてたんだよ。勇大の隣にいたくて、勇大を独占したくて……それで……幼稚園の頃から……ずっと可愛くなりたい思いを封印し続けて……」

勇大「……ウソ……だよな?」



朝妃は勇大から視線を逸らす。



朝妃「(ぼそっと)勇大と麗華さんの恋の邪魔をする気はないから……もう私に……話しかけないで……」



涙を飛ばしながら玄関まで走る朝妃。家の中に逃げ込む。



〇玄関

玄関ホールには、食べきったアイスの棒を持ち、心配そうな顔で立っている妹が。



妹「おねえ……大丈夫?」

朝妃「……」

妹「私のアイス、冷凍庫に入ってるから食べていいよ」



涙を拭き、無理やり妹に微笑む朝妃。妹の頭を優しくポンポン。



朝妃「妹にこんな顔させるなんて、お姉ちゃん失格だね」



何とか妹に微笑んだけど、また涙があふれてきた。



朝妃「ごめん……今は笑顔作るの無理っぽい……」



妹から顔を背け、泣きながら階段を駆け上がる朝妃。

妹は朝妃の背中を、苦しそうに見つめる。

妹なのに、姉を元気づけてあげられない無力さを感じながら。




〇朝妃の家の前


勇大は朝妃の庭の外で、立ち尽くす。

悔しそうに唇をかみしめ、垂らした手をギューッと握りしめている。



勇大「なんだよ……それ……。もっと早く気持ちを伝えろよ、バーカ!」



庭の外から朝妃の部屋の窓を見つめる勇大の、痛々しい表情で第7話が終わり。






☆第8話目以降は、noicomiマンガ大賞の結果発表後に更新する予定です。

続きを読みたい方は、もうしばらくお待ちください。



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