人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

4.悪役姫は、戦闘準備を開始する。

 離宮に移ったからといって、アリアは何も遊んでばかりいるわけではない。

「素晴らしい! 流石キルリア王国の至宝と名高いアリア様ですね。完璧です」

「そんな、全て先生方のおかげですわ」

 アリアは姫君らしく完璧に微笑んでそう謙遜してみせる。その品のある所作や美しさに教師たちはつい魅入る。

「我々が教えられる事など何もありませんね」

 皇太子妃として帝国でやっていくための厳しい教育やダンス、マナーなどのレッスン。
 1回目の人生で、ロイの隣に立って彼が恥ずかしい思いをする事がないようにと、罪人として裁かれるその日までずっと努力し続けた。
 ロイに、褒められたかったのだ。そして、彼は私にやる気を出させるのが上手すぎると、アリアは1回目の人生を思い出し苦笑する。
 動機も経緯も不純だったけど、血反吐を吐くほど頑張って身につけたそれは今世で大いに役に立っている。

(まぁ、彼に愛される要素にこれらは全く必要ないんだけどね。この手のコトが一切できなくても彼に愛されてしまうのが、ヒロインなのだから)

 一瞬暗い気持ちになりかけた思考をアリアは首を振って吹き飛ばす。ロイに愛されるためには不要でも、今世彼と離婚する自分のためには必要なはずだ。

(より一層、できる事を増やさないと。一手でも多く、そしてなるべく早く離婚のための手段が取れるように)

 悪役姫として名を残してしまったが、本来アリアは自他共に認める努力家だ。
 色恋沙汰さえ絡まず、嫉妬心に狂う事がなければ、自分はキルリアの姫として申し分ない存在のはずだ。そう、育ててもらったのだ。大好きな両親と仕えてくれた家臣たちに愛情深く、大切に。
 もちろんそんなことは本編には関係ないので、一切出てこない話だけれども、アリア自身はちゃんと知っている。

「先生方、私もっと色々な事が学びたいですわ。……皇太子妃として、どんな事でも身につけておいて損はないと思いますの」

「素晴らしい向上心です。ご興味があるものはありますか?」

「そうですね。ではとりあえず」

 アリアは微笑んで希望を伝える。驚かれたが僅かひと月足らずで皇太子妃として必要な教育を全て終えた彼女の希望はあっさりと受け入れられた。
 もうすぐアレがやってくる。だから、備えておかなくては。
 アリアは窓の外を見て、雨が降りそうな雲を目でぼんやり追いながらそんな事を考えた。
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