人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「なんだ、真っ直ぐ帰らないのか?」

 本館への一番近いルートとは真逆に歩き出したアリアの隣でロイはそう言葉をかける。

「今一番見頃な花はこっちに咲いてますので」

 お散歩って言ったでしょとアリアは笑って、歩道にそって整備された花を愛でる。

「お花持って来なくなったなーとは思ってましたが、四季折々に咲く花、全部植えたんですね。しかも全種類私が好きな奴」

 今この一帯が一番綺麗なんですよとアリアは花壇を見せる。
 確かに手配しただけで実物は見てなかったなとロイは楽しそうに話すアリアを見ながら綺麗に咲く花を眺めた。

「ありがとうございます。まさかハデス様経由でフレデリカお姉様とやり取りをされているとは思いませんでした」

 お姉様から手紙が届いたんですとアリアは嬉しそうに話す。
 先日届いた手紙には、アリアのその後を案じる内容とこの間ロイが口にした夫婦円満の秘訣などが書かれていた。

「まぁ離宮はもともと荒れてたからな。ちょうどいいかと思って。行き帰りに花でも咲いてれば多少なりと本館に来るのも億劫じゃなくなるかと」

「別に本館に行くのが億劫だと思ったことはありませんよ。それに、離宮での暮らしもそれなりに気に入っているんです」

 1回目の人生では最期までただただ寂しい場所でしかなかったが、現在はマリーのおかげで快適だし、本館ほど非難めいた視線を向けられる事もない。
 本館までの道もいつのまにか整備され、むしろこの道のりを楽しんでいる自分がいる。

「そうか。なら良かった」

 そう言って微笑んだロイは、

「なぁ、ダイヤモンド宮や共同寝室は何が嫌だったんだ?」

 と物のついでのように尋ねる。

「そんな事を聞いて、どうするのですか?」

 離宮に住んで以降戻って来いと言われた事もないし、むしろ離宮に手入れを指示し住みやすくしている状態でわざわざ尋ねる意味が分からず、アリアは眉を顰めて尋ねる。

「今後の参考に。内装が気に入らないなら丸ごと変えても構わないし、なんなら建物自体建て替えてもいい。でも、そういう事じゃないんだろうなって」

 ダイヤモンド宮は正妃の住まいなだけあって調度品一つとっても離宮よりもはるかに質の良い物で揃えてあるし、設備も最新式のものを取り入れている。
 だが離宮で暮らすことを望むアリアは、見ている限りかなり質素な生活をしており、割り当てられた予算も食費や離宮の維持費など最低限しか使われておらず、新しいドレス一枚作らない。
 ロイがいくらアリアにドレスやアクセサリーや宝石を贈っても、それらが使われたところを一度たりとも見た事はなく、着飾る必要があれば全て嫁ぐ時に持参した自前のもので済ませている。
 アリアが素直に受け取ってくれた物は、生花のように枯れてしまうものか、飴などの食べ物と、転移魔法を組んだブレスレットくらいで、預けるだけと押し付けた王冠は飾ってあるが、それ以外はどこかに保管されているようでロイの目に触れる事はなく開封されているかすら怪しい。
 まるで形に残るものは全部受け取らないと決めているかのように、結婚当初より随分打ち解けた気がする今でもその姿勢は変わらなかった。
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