人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「一体、どういうおつもりですか! 姫様」

 自分達以外いなくなった部屋で、彼女は強い口調でアリアの事を嗜める。

「マリー、そんなに怒鳴らなくても聞こえているわ」

 結婚式の日以降ずっと様子がおかしかった自分を気遣い、辛抱強く見守っていたマリーもとうとう堪忍袋の尾が切れたかとアリアは苦笑する。
 マリーは初夜の翌日、突然アリアの希望でダイヤモンド宮を引き払って離宮に移った時も、国から連れてきた従者たちをマリーを除き全てキルリアに帰してしまった時も、黙って従ってくれていた。
 だが、本日本館からロイの使いが来たのを追い返してしまったのは流石に見逃せなかったらしい。

「どうしてしまったのです、姫様。あんなにロイ様との結婚を待ち望んでいたではありませんか? 野暮かと思ってお尋ねしませんでしたが、初夜で何があったのですか? 初日以降夜伽のお呼びもありませんし、離宮に一度顔を見せたきり訪ねても来ない。そんな殿下からようやくお呼びがあったというのに、あんな断り方をして」

「食事の誘い断ったくらいで大袈裟ね。急病なのだから仕方ないじゃない」

「どこがですか? ピンピンしてるじゃないですか!! 私、幼少期からお仕えしてますけど、姫様が寝込んでいるのなんて数えるほどしか見た事ないですよ」

「その稀な事態が今から来るのね。わぁー大変」

 のらりくらりとマリーの小言をやり過ごしながら、アリアは先程の使いの者とのやり取りを思い出す。
 ロイの使いから渡された手紙には、忙しくてなかなか会いに来れなかったという謝罪と夕食に誘いたいのだが都合はいかがかという文面。トゲが抜かれた薔薇の花が一輪添えられており、便箋には柑橘系のいい香りがふわっと薫るように染み込ませてあった。
 
「あんなに丁寧な心遣いを無下にするだなんて、姫様は一体どうしてしまわれたのですか?」

 歩み寄りの姿勢を見せてくるロイに対して、仮病で断る。どこからどう見ても非はアリアの方にあるとマリーに責められるまでもなく分かっている。
 アリアは届けられた薔薇をクルクルと指先で弄びながら、心遣いねとため息を漏らす。
 1回目の時にも似たようなことがあった。まぁあの時住んでいた場所は離宮ではなくダイヤモンド宮で、ロイの住まいともロイの執務室がある場所ともすぐ目と鼻の先の近さだったが。
 あの時は忙しい中届けられた手紙と細かな気遣いに心が踊り、柑橘系の匂いが好きになり、貰った薔薇をドライフラワーにしてとっておいたりしたっけ? と同じやり取りを今回冷めた気持ちで受け止められている自分にアリアは良かったと感じている。
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