人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「ねぇ、マリー。ずっと私のことを気にかけてくれるのは嬉しいけれど、あなたはあなたで自分の幸せを考えてくれてもいいのよ?」

 アリアは大事そうにマリーの手を取ってそう告げる。

「私が15の時拉致されたのはあなたのせいじゃないわ。それに、ちゃんと帰ってきたじゃない」

「……それが、全く関係ないとはいいません。それに、あれはやはり私の落ち度です。大切な国の宝を、私のかけがえのない主人を失うところでした」

 マリーは自分の腕をきつく掴み、顔に後悔を滲ませる。

「マリー、起きてしまったことはもうどうしようもないわ。それに、私はあなたを責める気なんてないの。ただ、あなたにも幸せになって欲しいだけ」

 そう言って、アリアはマリーの握りしめた腕をそっと外し、手を握る。

「私はマリーが大好きよ。それだけは忘れないで」

「知っています。マリーも姫様が大好きですよ」

 良かったと優しく笑うアリアを見ながら、マリーはつられたように笑う。

「それにほら、悪い事ばかりじゃなかったわ! ロイ様に助けてもらったし」

 とアリアは懐かしそうに過去の思い出を語る。それはもう、今のアリアにとっては綺麗に清算してしまった初恋の話。

「殿下全く覚えてないようですけどね」

 姫様を荊姫から引退させた相手から求婚が来た時は一体どんなミラクルかと思いましたよ、とマリーは苦笑する。

「いいの、覚えてなくて。これは、ただの私の自己満足。あの時のご恩返しがしたいだけ」

「では、その清算が済んだら帝国を去るおつもりですか?」

 マリーに聞かれ、アリアは手元に視線を落とす。

「それは……運命、しだい……かな」

(私の実力じゃ、きっと1月で帰ってくる事は無理だろうな)

 もしヒナが小説の通り異世界転移してくるならば、戻って来た時にはヒナがロイの隣にいるかもしれない。

「でも今なら、どう転んでも平気だと思うの。フレデリカお姉様にもいつでもウィーリアに来ていいって言われたし、アレクお兄様にも帰ってこいって言ってもらったし」

 小説のヒロインとヒーローが仲睦まじく並ぶ光景を思い描いても、もうアリアの胸は痛まない。
 そんな光景とアリアと自分のことを呼んで手を引く、今世を生きるロイのことを切り離して考えられるようになったから。

「それに、私には頼れる侍女のマリーがいるもの」

 きっとどうなっても、自分はこの世界で1人ではない。
 それはとても心強い事で、それだけで未来にどんな光景が待っていても立ち向かえる気がした。
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