人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「大丈夫よ、マリー。キチンと本題の返事はしたのだから、殿下は機嫌を損ねたりしないわ。私だって、自分の役割くらい分かっているつもりよ」

 そう言ってアリアは薔薇の花を飾る事なく机に放り投げる。
 わざわざ来た使者にはとても悪いことをしたと思う。だが、自分が夕食に行かなかったとしても、必要な返事は持って帰ったのだから彼がロイから叱られる事はないだろう。
 夕食の誘いの手紙を見たアリアは、

『今から高熱が出る予定なので、残念ながら食事が喉を通りそうにありません。時間と資源の無駄なので、今後私に対してはこのような機嫌伺いなど不要です。公務はもちろん出席します。義務ですから。公務についての詳細は書面で送って下さい。当日お会いしましょう』

 と、伝言を返した。
 手紙を書かず、花の礼すらつけずに。
 それが礼を欠く行為だと、充分承知した上でアリアはあえてそうした。

「手紙ごと処分しておいて。私の目に触れないように」

 手元にコレがあるだけで、1回目の人生の結婚1年目を思い出し、気持ちが掻き乱されてしまう。あの時の自分は毎日浮かれていた。
 ロイが書いたわけでも、用意したわけでもない、手紙や花に一々感動し、まるで自分が愛されているのだと勘違いして、彼からの贈り物は全て宝物のように扱っていた。
 でも今のアリアは知っている。これらは全てアリアの機嫌をとって、気持ちよく事に臨ませるための仕掛けでしかないということを。

(まぁ、要するに馬の鼻先ににんじんぶら下げるのと一緒よね。大丈夫。こんな事でときめかない)

 分かってるから大丈夫、とアリアは自分に言い聞かせる。そうしていないとバカみたいに心臓が速くなるから。
 そして、自分とヒナとの対応の差を思い出す。
 ロイは、どれだけ忙しくともヒナのために時間を作り、彼女の好きな花束を持って自ら彼女を迎えに行くのだ。
 幸せそうな顔をして。

(コミカライズ、網羅しておいて良かった。本当、神作画だった)

 あんな風に微笑み合う幸せそうな2人を見たら、本命とそれ以外(当て馬)、どちらがそうなのか勘違いのしようがない。
 そう思うのに、締め付けられるように胸が痛くて泣きそうだった。

(私は所詮、処刑予定の悪役姫だもの。今世では徹底的にロイ様に嫌われよう。一縷の希望すら、絶対に抱く事がないように)

 もうすぐ、ちょうどいい具合に公務が入る。そこでやらかせばきっとロイは自分など切り捨てたくなるに違いない。

(早く、離婚しなきゃ。ロイ様にもヒナにも幸せになって欲しいもの)

 大丈夫、できるはず。
 悪女の血が入っている、かつて荊姫と呼ばれた自分なら。
< 12 / 183 >

この作品をシェア

pagetop