人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

52.悪役姫は、帰還を待たれる。

 アリアがアクアプールに出立して2月が経った。上がってくる報告書や関連する情報を斜め読みしながらロイはため息をつく。

「でーんか。姫がいないからってそんな寂しがらなくても〜。直に帰って来ますって」

 クラウドはやる気無さげなロイを揶揄うように笑う。

「姫、大活躍じゃないですか。人的被害ほぼゼロ。スタンピードの制圧も終わったようですし、思ったより早く帰って来そうっすね」

「そうだな、随分と無茶をしたようだ」

 この事態を収めるのに、アリアは一体どれだけの魔力(寿命)を使ったのか。
 報告書に上がって来ないアリアの事を考えて、ロイはため息をつく。

「これ以上かかるなら俺も出ようかと思ってたのに、出番なしだな」

「殿下ももう少し休んだ方がいいっすよ。不眠不休じゃないっすか。2ヶ月足らずで王弟殿下に引導渡すとは思いませんでした」

「約束したからな。派閥の解体はしたけど、神殿派を完全に手懐けたわけじゃないし、まだまだパワーゲームが続きそうで欠伸が出る」

「欠伸が出るほど退屈しているなら、お迎えに行ってはいかがです?」

 退屈そうにそう言ったロイに、ルークが書類の山と手紙を持って声をかける。

「任務完了の知らせが届きました。アリア様がお戻りになりますよ」

 転移魔法の拠点まで移動したら戻ってくるのは直ぐだと思いますよとルークは告げる。

「いいのか? いつも脱走すると眉間に皺寄せて胃に穴開くって文句タラタラ言うくせに」

「"気が抜けない"なら行かせませんけど、あとはロイ様にとっては消化試合でしょ。やる気なーく、テキトーに仕事捌かれるの見ているよりマシです。ほとんど終わってますし」

 それよりも、とルークはロイに詰め寄り顔面に書類を突きつける。

「何枚目ですか、コレ送られてくるの!? ロイ様、アンタ何やらかしたんですか!!」

「おーキルリアからの離縁状。毎回毎回証人欄記入済みで、手が込んでるよな。安心しろ、王家の承認印押されてないから無効だ」

 毎週届くので何枚目かもはや覚えていないそれをヒラヒラさせながら、

「ちょっと揶揄ったら"お前にお兄様なんて呼ばれる覚えはない! うちの可愛い妹返してくれる?"ってさ。アリアがちょっとシスコン入ってるって言ってたが、アリアの"ちょっと"の基準は大分甘いな」

 と楽しそうにそう言った。

「おかげで俺アリアのきょうだいに軒並み嫌われてんだけど。アレクの風評被害がヤバいな」

「ロイ様が協力者(アレク様)の地雷を踏み抜いたりするからでしょ」

「いやぁ、だってあれだけ威嚇されたら揶揄いたくもなるだろ。それに事実しか言ってない」

 多少情報を足したり引いたりまとめたりしただけでと全く悪びれる様子なくロイは肩を竦める。
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