人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
アリアのシャンパンゴールドの髪をそっと撫でたロイは、
「全然、起きないんだな」
ピクリとも動かないアリアを見ながらつぶやくようにそう言った。
「これが黄昏時の至宝の代償です。身体能力を飛躍的に向上させるそれは、人間が本来本能的にかけているリミッターを寿命を対価に意図的に外しているのです。肉体にも精神にも当然大きな負荷がかかりますし、限界値を超えて擦り切れた神経を回復させるためには、集中的に眠り続ける必要があります」
マリーは眠り続けるアリアの世話を焼きながら、淡々とロイに説明する。
「でも、ここまで長く眠っているのは初めてですね。いつもは長くても3日程度なので」
もう1週間起きる気配のないアリアを心配そうに見つめながら、マリーはそう漏らす。
「姫様は自分の限界値をよく理解されているので、よほどの事がなければ連続使用はされません」
「狩猟大会のあともこうだったのか」
「ええ、そうですよ。だから面会謝絶の措置を取らせて頂いていたでしょう」
あの時は丸1日程度で目は覚めましたけどとマリーは毎日欠かさずアリアに会いに離宮に通うロイに告げる。
「便利な目ってわけでもないんだな。使わない、という選択肢はないのか?」
「魔剣を扱う以上、使わないということはあり得ませんね」
荊姫に呑み込まれず振り回すのに耐えるためには身体能力の向上は必須だ。
帝国に嫁いで以降荊姫を解放させたアリアはもう幾度となく黄昏時の至宝を発動している。
「騎士団に入れたのは間違い、だったのかな」
まるで眠り姫だなとベッドサイドの椅子に座ってアリアの能力の代償を知らなかったことを後悔するようにロイはつぶやく。
「最近の姫様は、とても楽しそうでしたよ」
とマリーはロイの背中に話しかける。
本当はこんな状態の姫様に殿下を会わせるつもりはなかったんですが、と前置きをしてマリーはクローゼットを開ける。
「普段自分が着る衣装は全部隣室に追いやって、目につく場所に置いてるんですよ。まるで宝物入れみたいでしょ?」
アリアの自室のクローゼットには今までロイがアリアに贈ったドレスや装飾品や靴が綺麗に展示されてあって、ロイはガラスの瓶に閉じ込めた飴を大事そうに眺めていたアリアの姿を思い出した。
「嫁いできた当初は居場所がなさそうで、居心地がとても悪そうで、いつ逃げ出すのかなぁって正直思っていたんですけど」
マリーはアリアを見ながら苦笑し、
「姫様は普段威勢よく人のこと振り回すくせに、大事なものほど臆病になって、手を伸ばせなくてしまうのですけれど。でもとても大事にしてましたよ。殿下に頂いたもの、全部」
昏昏と眠り続けるアリアに代わってマリーはネタバラシをするように静かに告げる。
そんなマリーの言葉を聞きながら、ロイはアリアを見つめると、
「言葉が全然足りないな、お互い」
そう言って笑った。
伝えたい事も、聞きたい事も多分ほとんど交わせないままでここまで来てしまった。
「目が、覚めたら」
今度はちゃんと言葉にして伝えないと、とロイはつぶやくと本日の面会を終えた。
「全然、起きないんだな」
ピクリとも動かないアリアを見ながらつぶやくようにそう言った。
「これが黄昏時の至宝の代償です。身体能力を飛躍的に向上させるそれは、人間が本来本能的にかけているリミッターを寿命を対価に意図的に外しているのです。肉体にも精神にも当然大きな負荷がかかりますし、限界値を超えて擦り切れた神経を回復させるためには、集中的に眠り続ける必要があります」
マリーは眠り続けるアリアの世話を焼きながら、淡々とロイに説明する。
「でも、ここまで長く眠っているのは初めてですね。いつもは長くても3日程度なので」
もう1週間起きる気配のないアリアを心配そうに見つめながら、マリーはそう漏らす。
「姫様は自分の限界値をよく理解されているので、よほどの事がなければ連続使用はされません」
「狩猟大会のあともこうだったのか」
「ええ、そうですよ。だから面会謝絶の措置を取らせて頂いていたでしょう」
あの時は丸1日程度で目は覚めましたけどとマリーは毎日欠かさずアリアに会いに離宮に通うロイに告げる。
「便利な目ってわけでもないんだな。使わない、という選択肢はないのか?」
「魔剣を扱う以上、使わないということはあり得ませんね」
荊姫に呑み込まれず振り回すのに耐えるためには身体能力の向上は必須だ。
帝国に嫁いで以降荊姫を解放させたアリアはもう幾度となく黄昏時の至宝を発動している。
「騎士団に入れたのは間違い、だったのかな」
まるで眠り姫だなとベッドサイドの椅子に座ってアリアの能力の代償を知らなかったことを後悔するようにロイはつぶやく。
「最近の姫様は、とても楽しそうでしたよ」
とマリーはロイの背中に話しかける。
本当はこんな状態の姫様に殿下を会わせるつもりはなかったんですが、と前置きをしてマリーはクローゼットを開ける。
「普段自分が着る衣装は全部隣室に追いやって、目につく場所に置いてるんですよ。まるで宝物入れみたいでしょ?」
アリアの自室のクローゼットには今までロイがアリアに贈ったドレスや装飾品や靴が綺麗に展示されてあって、ロイはガラスの瓶に閉じ込めた飴を大事そうに眺めていたアリアの姿を思い出した。
「嫁いできた当初は居場所がなさそうで、居心地がとても悪そうで、いつ逃げ出すのかなぁって正直思っていたんですけど」
マリーはアリアを見ながら苦笑し、
「姫様は普段威勢よく人のこと振り回すくせに、大事なものほど臆病になって、手を伸ばせなくてしまうのですけれど。でもとても大事にしてましたよ。殿下に頂いたもの、全部」
昏昏と眠り続けるアリアに代わってマリーはネタバラシをするように静かに告げる。
そんなマリーの言葉を聞きながら、ロイはアリアを見つめると、
「言葉が全然足りないな、お互い」
そう言って笑った。
伝えたい事も、聞きたい事も多分ほとんど交わせないままでここまで来てしまった。
「目が、覚めたら」
今度はちゃんと言葉にして伝えないと、とロイはつぶやくと本日の面会を終えた。