人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

56.悪役姫は、鑑定される。

「マリー、荊姫を」

 アレクに呼ばれたマリーは荊姫を差し出す。起動していない荊姫は手のひらに載るほど小さな剣でまるでおもちゃのように見える。

「魔剣を取り出してどうする気なんだ?」

「荊姫の欲している魔力量を調べる」

「荊姫の魔力量?」

 疑問符を浮かべるロイにアレクは地面に計算式を書きながら話す。

「多分今のアリアの状態は魔力欠乏症なんだ。アリアの魔力生成量に対して、使用量が多すぎる。結果、黄昏時の至宝(サンセットジュエル)の代償で消耗した身体や魔力回路の自己修復が追いつかず昏睡というよりも仮死に近い状態だと思われる」

 それが目を覚さない一番の理由ね、とアレクはサラサラと術式をいくつも書いていく。

「アリアの魔力の一番の供給先は荊姫だ。だから一時的に荊姫への魔力供給量を抑えようと思う」

「そんな事ができるのか?」

「荊姫には、足りない分の魔力を別の魔力で我慢してもらう。そうしないと暴発しかねない」

 本当はあんまりやりたくないんだけど、アリアのためなら仕方ないとアレクはため息を吐く。

「荊姫に必要量の魔力を与えて一時的にスリープ状態にすれば、アリアは自分の魔力を自己修復だけに集中して使える。魔力回路が回復すれば魔力生成量も増えるし、身体が治れば目も覚めるよ。多分」

 そう言ったアレクの言葉に、目を見開いたマリーは、

「アレク様、どうかマリーの魔力をお使いください。それで姫様が回復されるなら、全部魔力を使って頂いても構いません。分家筋ですが、キルリア王家の血も混ざっています。私なら、相性だって悪くないはずです」

 と懇願する。

「気持ちは嬉しいけどね、マリー。君じゃ魔力が足らなさ過ぎる。それに、マリーが倒れてしまったら、誰がアリアの世話を焼くんだい?」

 ギリッと唇を噛むマリーの頭に手を乗せて、

「マリーの忠誠心は買うけどね、アリアのためを思うなら君は最後まで倒れてはいけない」

 これからもアリアを頼むよとアレクはそう言ってマリーを下がらせた。

「というわけで今回は僕自身の魔力を使うけど、倒れるから後よろしく。多分明日まで起きない」

 僕も魔力量多い方じゃないんだよねとアレクは面倒くさそうにそう言った。

「それは、キルリア王家の人間じゃないとダメなのか?」

「正確には荊姫が好む魔力の質でないとダメって感じかな?」

 だから必ずしも王家の人間とは限らないとアレクは話す。

「詳しいな」

「そりゃあね。ずっと魔剣について研究してるから」

 驚いたような顔をするロイにアレクは肩を竦める。

「本来、アリアが生まれなければ荊姫に魔力を……命を捧げる生贄は僕がやるはずだったんだ」
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