人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「"世界で最もわがままなお姫様"」
「なんだ、それ?」
「荊姫の別名だよ。力のある魔剣にはそれぞれの特性を表す2つ名がある。わがままなお姫様は我を通すためならなんでもするんだろう」
「それで、アリアを殺して連れ去るのか? そんな無茶苦茶な」
「でも、多分この現象は荊姫の独断では起きないと思う」
アレクの言葉にロイは驚いたように目を丸める。
「荊姫が魔力を引き出せる最大値はアリアとどれほど共鳴できているか、による。少なくともアリア自身が望まなければ、そうはならないはずなんだ」
「アリアが、死ぬ事を望んでいるって?」
バカな事を言うなよとロイはつぶやいて奥歯を噛み締める。
「さぁ、アリアの願いは僕には分からないし、そもそもアリア本人にも分かっていないのかもしれない。ただ潜在的にあるそれを、荊姫が掬い上げて応えている可能性はある」
アリアは荊姫のお気に入りだからと言いながらアレクはガラスケースの中を魔力で満たした。
「ただどこかの世界でアリアは"ここではないどこかに行ってしまいたい"と思っただけなのかもしれない。そして、今もそう思っているのなら、止める手立てはないかもね」
実際のところは本人に聞かなければ分からないし、聞いたところで説明できるものではないのかもしれないと、アレクは淡々と言葉を紡ぐ。
「けどまぁ、現時点で僕の可愛い妹は確かにここにいて、どこにも行かないで欲しいと願っている人間がいるってことくらいは伝えておきたいと思うから、起きてもらわないと困るなぁ」
アレクはアリアの頭をそっと撫でる。
「ロイ、君はアリアを引き留められるかい?」
そう言ってロイを見上げるアレクの空色の瞳は、アリアの姉フレデリカと同じ色をしていた。
アリアを泣かせたら許さない、と。
「僕的には、他の世界に行かれるくらいならさっさとロイなんて見限ってキルリアに帰ってくれば? って思ってるから」
離縁状に記入しといてくれてもいいよ? と言ったアレクを見ながら、
「悪いな、離婚する気はさらさらないんだ」
ロイの琥珀色の瞳は、アリアの隣は譲れないと語る。
「それは残念だ」
あとよろしくと言ったアレクはガラスケースに込めた魔術を発動させ、魔力を使い切った反動で眠りに落ちた。
************
「なぁ、アリア。今、一体君は何周目の人生なんだ?」
アレクのあり得ないような話を思い出しながら、ロイは眠っているアリアに問う。
『1年以内に私と離縁してください』
『真実の愛の前では悪役姫など、邪魔なだけですもの』
『1回目の人生だったら、私はきっと迷わずあなたを選んだのに』
『これから先、もし、人生を何度繰り返す事があったとしても、私はあなたの隣を選ばない』
かつて、アリアに言われた不可解な言葉の数々が頭に浮かぶ。
「これが、アリアの望んだ結末なのか?」
『だから、私は物語から退場するの。それが、私の望む未来だから』
私は悪役姫だから。
とてもそうは見えないアリアが、いつも辛そうにその言葉を口にする。
「でも、俺は」
『未来がどうなるか、私にはもう正確には分からなくって』
アリアがアクアプールに立つ前に言った、その言葉に縋りたくなる。
選択によって未来は変わっていくのではないか、と。
「たとえアリアが悪役姫なんだとしても」
もし、アリアが過去自分の預かり知らないところで自分の知らない世界の自分と諍いがあり、傷つけてしまったのだとしても。
「それでも、ここに"今"いる俺は」
ロイはアリアの長い髪を掬って、そこに口付ける。
「俺はアリアの事を愛している。君と生きる時間が欲しい」
目が覚めたら、沢山言葉を交わそう? とロイはアリアに話しかける。
今はまだここに間違いなくいるアリアを失わなくて済むように。
「なんだ、それ?」
「荊姫の別名だよ。力のある魔剣にはそれぞれの特性を表す2つ名がある。わがままなお姫様は我を通すためならなんでもするんだろう」
「それで、アリアを殺して連れ去るのか? そんな無茶苦茶な」
「でも、多分この現象は荊姫の独断では起きないと思う」
アレクの言葉にロイは驚いたように目を丸める。
「荊姫が魔力を引き出せる最大値はアリアとどれほど共鳴できているか、による。少なくともアリア自身が望まなければ、そうはならないはずなんだ」
「アリアが、死ぬ事を望んでいるって?」
バカな事を言うなよとロイはつぶやいて奥歯を噛み締める。
「さぁ、アリアの願いは僕には分からないし、そもそもアリア本人にも分かっていないのかもしれない。ただ潜在的にあるそれを、荊姫が掬い上げて応えている可能性はある」
アリアは荊姫のお気に入りだからと言いながらアレクはガラスケースの中を魔力で満たした。
「ただどこかの世界でアリアは"ここではないどこかに行ってしまいたい"と思っただけなのかもしれない。そして、今もそう思っているのなら、止める手立てはないかもね」
実際のところは本人に聞かなければ分からないし、聞いたところで説明できるものではないのかもしれないと、アレクは淡々と言葉を紡ぐ。
「けどまぁ、現時点で僕の可愛い妹は確かにここにいて、どこにも行かないで欲しいと願っている人間がいるってことくらいは伝えておきたいと思うから、起きてもらわないと困るなぁ」
アレクはアリアの頭をそっと撫でる。
「ロイ、君はアリアを引き留められるかい?」
そう言ってロイを見上げるアレクの空色の瞳は、アリアの姉フレデリカと同じ色をしていた。
アリアを泣かせたら許さない、と。
「僕的には、他の世界に行かれるくらいならさっさとロイなんて見限ってキルリアに帰ってくれば? って思ってるから」
離縁状に記入しといてくれてもいいよ? と言ったアレクを見ながら、
「悪いな、離婚する気はさらさらないんだ」
ロイの琥珀色の瞳は、アリアの隣は譲れないと語る。
「それは残念だ」
あとよろしくと言ったアレクはガラスケースに込めた魔術を発動させ、魔力を使い切った反動で眠りに落ちた。
************
「なぁ、アリア。今、一体君は何周目の人生なんだ?」
アレクのあり得ないような話を思い出しながら、ロイは眠っているアリアに問う。
『1年以内に私と離縁してください』
『真実の愛の前では悪役姫など、邪魔なだけですもの』
『1回目の人生だったら、私はきっと迷わずあなたを選んだのに』
『これから先、もし、人生を何度繰り返す事があったとしても、私はあなたの隣を選ばない』
かつて、アリアに言われた不可解な言葉の数々が頭に浮かぶ。
「これが、アリアの望んだ結末なのか?」
『だから、私は物語から退場するの。それが、私の望む未来だから』
私は悪役姫だから。
とてもそうは見えないアリアが、いつも辛そうにその言葉を口にする。
「でも、俺は」
『未来がどうなるか、私にはもう正確には分からなくって』
アリアがアクアプールに立つ前に言った、その言葉に縋りたくなる。
選択によって未来は変わっていくのではないか、と。
「たとえアリアが悪役姫なんだとしても」
もし、アリアが過去自分の預かり知らないところで自分の知らない世界の自分と諍いがあり、傷つけてしまったのだとしても。
「それでも、ここに"今"いる俺は」
ロイはアリアの長い髪を掬って、そこに口付ける。
「俺はアリアの事を愛している。君と生きる時間が欲しい」
目が覚めたら、沢山言葉を交わそう? とロイはアリアに話しかける。
今はまだここに間違いなくいるアリアを失わなくて済むように。