人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
 ロイはアリアという人物について考える。
 そもそもアリアを妻にと望んだのはキルリア王国のその王族としての由緒正しい古い血とキルリアが政略結婚を繰り返し結んできたそこに連なる数多の国との繋がりが国益のために必要と考えたからだ。
 キルリアと政略結婚を結ぶのにはかなり骨を折ったし、ロイが政略結婚を申し入れた時点で末娘のアリア以外はすでに他国へ嫁ぎ済み。
 キルリアが割と同盟国でない国に対して閉鎖的であることや王宮で囲われて育ったアリアが公務に就く事も表に出てくる事もなかったため、結婚前の彼女の情報はかなり乏しかった。
 調べられる範囲でロイが様々なツテを駆使してアリアを調査した結果、彼女のその容姿が彼女が王宮で囲われていた原因だと判明した。
 アリアはかなり美しく人目を引く派手な顔立ちをしている。
 その容姿が王妃の母親、つまりアリアの祖母と瓜二つらしかった。
 王妃の生家は侯爵家で、早くに亡くなった母親の素行が悪く特に男狂いの悪女としてキルリアでは有名だ。
 それだけスキャンダルのあった侯爵家の出身であったのに、アリアの母親が王家に嫁げたのは、侯爵自体はまともな人でキルリアで絶大な権力を握っていたことと、王妃自身の能力が群を抜いて高かったからに他ならない。
 そんなわけで祖母と瓜二つの容姿というだけで王宮から出してもらえなかったアリアだが、中身の方は幼少期からキチンと管理されていたためか、悪女と言われた祖母とはまるで似ていないようだった。
 実際アリアに会ってみてロイが感じた彼女自身は、その容姿で誤解されやすいようだが、男に免疫がなく、かなり素直で扱いやすいタイプだと感じた。
 現に婚約者として初めて会ったロイにアリアはあっという間に好意を示すようになった。
 疑わず、素直で、当たり前に愛される、世間知らずなお姫様。公務に就いたことのない彼女が多少妃として能力が低かったとしても今から教育していけばいい。
 何より末娘らしくどのきょうだい達ともかなり仲の良い関係を築いているのは、他国との繋がりが欲しいロイには大きなメリットだ。
 そんなわけで引く手数多のロイが最終的に正妃として選んだのがアリアだった。
 その選択に間違いがあったとは思えないのだが。
 結婚までは順調だったはずなのにここに来て、アリアという人物がまったく分からない存在になってしまった。

『私がこれから先、殿下に望むのは、殿下から離縁されること。それだけです』

 リベール帝国との繋がりはキルリアにとっても重要なはずだ。それが分からないほど、アリアが愚かだとは思えない。
 それなのに、結婚直後に離縁を望むアリアの真意がまるで分からない。
 アリアにつけた教師達は、もう教える事が無いほど完璧だと口を揃えて彼女の事を絶賛する。
 それほどの人物が、皇太子である自分に対して礼を欠く行為を繰り返すのは、アリアにとってそうする必要があるからと考える方が自然だろう。

『公務についての詳細は書面で送って下さい。当日お会いしましょう』

 という事は、どうやっても当日まで会う気はないのだろう。
 ロイはアリアの顔を思い浮かべ、ふっと口角をあげる。逃げられれば追いたくなるのが男の本能だと分かっているのか、いないのか。
 いずれにせよ、公務当日は彼女に会えるのだ。

「お手並み拝見といこうか? アリア・ティ・キルリア」

 正直毎年面倒だと思っていた公務が、今年は楽しめそうだとロイはひとりほくそ笑んだ。
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