人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
60.悪役姫は、推し活をする。
アリアは食事をしながらマリーに自分が倒れてから後の話を聞く。
普段なら2〜3日で目覚めるところ、どうやら自分は3週間も寝続けていたらしい。身体のあちこちに違和感があるのも、出された食事がリゾットなのも納得だ。
完食したアリアは出された温かいお茶をゆっくり飲みながら、マリーに尋ねる。
「ねぇ、殿下が助けた彼女はどうなったの?」
さすがに目覚めたばかりの自分が時渡りの乙女の名前や聖女である事を把握していては辻褄が合わないだろうと、アリアは聞きたいことだけを端的に問う。
「実はヒナ様は、異界から転移されてきた聖女様で」
現在はロイ様と共に瘴気の浄化にあたられていますと言ったあと、マリーは目を伏せる。
「あの、姫様。お伝えしておかなければならない事があるのですが……」
言いにくそうに言葉を途切れさせたマリーに微笑み、
「ダイヤモンド宮が聖女様にあてがわれているのかしら?」
と問いかけというよりも確信を持ってアリアはそう言った。
「どうして、それを」
驚いたように目を丸くしたマリーを見ながら、アリアは苦笑する。
アリアの表情には落胆した様子はなく、むしろ当然とさえ思っているようで、マリーの方が困惑してしまう。
「前にね、殿下が言っていたの。国と妃の命なら秤にかけるまでもなく、国を取るって」
まぁ、この場合は国のためよりもきっと恋に落ちたのだろうとアリアは思う。
1年かけて一緒にいてほとんど進展する事のなかった自分とは違い、僅か3週間で正妻の座に手をかけたヒナはさすがヒロインというべきなのか、それともこれが物語の強制力というものなのか、いずれにしてもロイの隣が埋まったのはこれで確定と見ていいだろう。
「この世界で唯一といってもいい聖なる力をお持ちの聖女様なら、手厚く保護されるべきだし、神殿派をはじめ殿下に歯向かうような相手側に聖女の身柄は渡せない。この帝国には皇子様は1人しかいないのだから、比べるまでもなく切り捨てられるのは私でしょ」
アリアは泣くでも悲観するでもなく淡々と言葉を紡ぐ。
「……姫様」
マリーは否定しようと言葉をかけようとするが、
「部屋にね、離縁状が置いてあったの。私はそれに応じるつもりよ」
もう記入もしてあるわとアリアは告げる。
「……姫様はそれでよろしいのですか?」
あれだけアリアのことを心配し、頻回にアリアの事を見舞いに来たロイが離縁を切り出すとは到底思えない。が、マリーはまずはアリアの意志を確認することにした。
「実はね、私と殿下の間に男女の関係はないの。殿下が最愛を見つけたなら、この場所は返さないと」
よくよく考えれば一緒にいて楽しいとは言われたが、はっきり好きだとか愛してるだとか言われたわけでもない。
多少の事故はあったけれど、夫婦らしいこともしていないし、3週間でヒナを正妃にと考えるロイからすれば、自分に対してのスキンシップなど大した事もないのだろうとアリアは納得するとともに、熱の篭った視線なんてものは結局のところ自分の主観でしかなく勘違いだったのだろうとアリアは思う。
「それにね、私皇太子妃向いてなかったし、離縁状叩きつけられてちょっとスッキリもしてるの。皇太子妃辞めたら何しようかなってワクワクもしてる」
最後に一目会ったらそれでおしまい。悪役姫は物語から退場するの、ともうアリアの気持ちは別の方向を向いていた。
「今なら殿下にフラワーシャワーも投げられそう。一旦はキルリアに戻るけど、フレデリカお姉様にも会いたいし、ウィーリアとかいろんな国に行きたいな」
にこやかにワクワクと未来を語るアリアの様子はマリーのよく知るアリアの姿で。
「ねぇ、マリー。ついて来てくれる?」
「勿論です、姫様。どこへでもお供します」
アリアが元気なら離婚くらい大したことではないかと、マリーはこのまま話を流すことにした。
普段なら2〜3日で目覚めるところ、どうやら自分は3週間も寝続けていたらしい。身体のあちこちに違和感があるのも、出された食事がリゾットなのも納得だ。
完食したアリアは出された温かいお茶をゆっくり飲みながら、マリーに尋ねる。
「ねぇ、殿下が助けた彼女はどうなったの?」
さすがに目覚めたばかりの自分が時渡りの乙女の名前や聖女である事を把握していては辻褄が合わないだろうと、アリアは聞きたいことだけを端的に問う。
「実はヒナ様は、異界から転移されてきた聖女様で」
現在はロイ様と共に瘴気の浄化にあたられていますと言ったあと、マリーは目を伏せる。
「あの、姫様。お伝えしておかなければならない事があるのですが……」
言いにくそうに言葉を途切れさせたマリーに微笑み、
「ダイヤモンド宮が聖女様にあてがわれているのかしら?」
と問いかけというよりも確信を持ってアリアはそう言った。
「どうして、それを」
驚いたように目を丸くしたマリーを見ながら、アリアは苦笑する。
アリアの表情には落胆した様子はなく、むしろ当然とさえ思っているようで、マリーの方が困惑してしまう。
「前にね、殿下が言っていたの。国と妃の命なら秤にかけるまでもなく、国を取るって」
まぁ、この場合は国のためよりもきっと恋に落ちたのだろうとアリアは思う。
1年かけて一緒にいてほとんど進展する事のなかった自分とは違い、僅か3週間で正妻の座に手をかけたヒナはさすがヒロインというべきなのか、それともこれが物語の強制力というものなのか、いずれにしてもロイの隣が埋まったのはこれで確定と見ていいだろう。
「この世界で唯一といってもいい聖なる力をお持ちの聖女様なら、手厚く保護されるべきだし、神殿派をはじめ殿下に歯向かうような相手側に聖女の身柄は渡せない。この帝国には皇子様は1人しかいないのだから、比べるまでもなく切り捨てられるのは私でしょ」
アリアは泣くでも悲観するでもなく淡々と言葉を紡ぐ。
「……姫様」
マリーは否定しようと言葉をかけようとするが、
「部屋にね、離縁状が置いてあったの。私はそれに応じるつもりよ」
もう記入もしてあるわとアリアは告げる。
「……姫様はそれでよろしいのですか?」
あれだけアリアのことを心配し、頻回にアリアの事を見舞いに来たロイが離縁を切り出すとは到底思えない。が、マリーはまずはアリアの意志を確認することにした。
「実はね、私と殿下の間に男女の関係はないの。殿下が最愛を見つけたなら、この場所は返さないと」
よくよく考えれば一緒にいて楽しいとは言われたが、はっきり好きだとか愛してるだとか言われたわけでもない。
多少の事故はあったけれど、夫婦らしいこともしていないし、3週間でヒナを正妃にと考えるロイからすれば、自分に対してのスキンシップなど大した事もないのだろうとアリアは納得するとともに、熱の篭った視線なんてものは結局のところ自分の主観でしかなく勘違いだったのだろうとアリアは思う。
「それにね、私皇太子妃向いてなかったし、離縁状叩きつけられてちょっとスッキリもしてるの。皇太子妃辞めたら何しようかなってワクワクもしてる」
最後に一目会ったらそれでおしまい。悪役姫は物語から退場するの、ともうアリアの気持ちは別の方向を向いていた。
「今なら殿下にフラワーシャワーも投げられそう。一旦はキルリアに戻るけど、フレデリカお姉様にも会いたいし、ウィーリアとかいろんな国に行きたいな」
にこやかにワクワクと未来を語るアリアの様子はマリーのよく知るアリアの姿で。
「ねぇ、マリー。ついて来てくれる?」
「勿論です、姫様。どこへでもお供します」
アリアが元気なら離婚くらい大したことではないかと、マリーはこのまま話を流すことにした。