人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
67.悪役姫は、さよならを告げられる。
執務室で山積みの書類に目を通し終わったロイは、
「俺の妻が優秀過ぎる」
そんな言葉とは裏腹にチッと舌打ちする。
アリアから出された書類は全て文句のつけようがないほど完璧で、細かなミスの1つもない。本来ならそれは喜ばしいことなのだが。
「……呼び出す口実が見つからない」
あー詰んだとロイはやる気なく机に伏せる。
マリーにもらったアリアからの手紙を要約すれば、国賓とも言える救国の聖女であるヒナを正妃の住まいに置いているのに、2人で会うのは好ましくない。
ヒナの地位を確立させるためにも、ロイの立場を盤石にしておくためにも、今は2人がなるべく共にいる方が望ましく、政略的に考えても今後アリアのことは朝食にも夜伽にも呼ばないで欲しいという内容だった。
「言ってる事はど正論だし、まぁ何もなければ俺ならその手を取るけども。何が悲しいってアリアから善意100%で、ヒナとの結婚勧められて記入済みの離縁状渡されることだよ!」
ここ3ヶ月以上アリアの事しか考えてなかったのに、さすがにこれは堪えるとロイは同封されていた離縁状を机に投げる。
「元を正せば離縁状なんか忘れて来た俺が悪いんだけどさぁ、せめて書く前に一言聞くとかないかな!?」
もうちょっと躊躇って欲しかったと不満を述べるロイに、
「私に言っても仕方がないでしょう」
ずっとロイの愚痴を聞いていたルークはため息混じりそう言った。
「まぁでもアリア様は元が優秀ですからね。その上で手塩にかけてロイ様自ら育てたら当然の結果では?」
だから大事に育てて寝首でもかかれたらどうします? って言ったじゃないですか、と呆れ顔のルークに、
「こんな刺され方は想定してないっ」
ロイはそう反論する。
ダメージが大きすぎて何にもやる気がしないと本日の仕事をロイは放り投げることにした。
「そんなロイ様のために、せっかくうっかりロイ様あての報告書を1枚アリア様の分に混ぜといたのに」
お話しできませんでした? とルークは尋ねるが、
「うん、アレは本当に最悪のタイミングだった」
誤解が深まっただけだったと先日のやりとりを思い出し、ロイは深い深いため息をついた。
「この1年、俺は俺なりにアリアのことずっと大事にしてたつもりなんだけどなぁ」
本当に1ミリも伝わっていなかったんだろうかとロイはアリアと過ごした日々を振り返り、またため息をつく。
こんなに簡単に記入してしまえるほど、アリアにとって自分は軽い存在だったのだろうか?
アリアの心理など書いてあるわけもないのだが、投げた離縁状を引き寄せてロイはそれをじっと眺める。
間違いなく見慣れたアリアの筆跡。それを指でなぞったロイは、最後の一文字で指を止める。
「今日、だったな。ヒナの瘴気の浄化とアリアの護衛」
本日時渡りの乙女聖女ヒナが出向いている先は、瘴気の濃度的にはあまり平時と変わりなく、魔獣の暴走も確認されていない。
だが、アレクの割り出した瘴気発生予想地に該当したため、念の為ヒナに瘴気の浄化を依頼した。なにもなければおそらく本日中には戻るはずだ。
「俺、あんまり分の悪い賭け事って好きじゃないんだけどなぁ」
仕方ないとペンを手に取ったロイは、さらさらっと離縁状に名前を刻む。
「……本気ですか?」
あれだけ離婚する気はないと言っていたのにとルークは驚いて目を見開く。
「他に手がないからな。賭けてみることにする」
「賭け……ですか?」
書き終わった離縁状を眺めたロイは、
「この1年を、アリアとの時間を信じてみることにする」
決意を固めたようなロイの顔を見て、何か打開策を見つけたらしいと察したルークは、
「ご武運を」
決着が早く着く事を祈ってそうつぶやいた。
「俺の妻が優秀過ぎる」
そんな言葉とは裏腹にチッと舌打ちする。
アリアから出された書類は全て文句のつけようがないほど完璧で、細かなミスの1つもない。本来ならそれは喜ばしいことなのだが。
「……呼び出す口実が見つからない」
あー詰んだとロイはやる気なく机に伏せる。
マリーにもらったアリアからの手紙を要約すれば、国賓とも言える救国の聖女であるヒナを正妃の住まいに置いているのに、2人で会うのは好ましくない。
ヒナの地位を確立させるためにも、ロイの立場を盤石にしておくためにも、今は2人がなるべく共にいる方が望ましく、政略的に考えても今後アリアのことは朝食にも夜伽にも呼ばないで欲しいという内容だった。
「言ってる事はど正論だし、まぁ何もなければ俺ならその手を取るけども。何が悲しいってアリアから善意100%で、ヒナとの結婚勧められて記入済みの離縁状渡されることだよ!」
ここ3ヶ月以上アリアの事しか考えてなかったのに、さすがにこれは堪えるとロイは同封されていた離縁状を机に投げる。
「元を正せば離縁状なんか忘れて来た俺が悪いんだけどさぁ、せめて書く前に一言聞くとかないかな!?」
もうちょっと躊躇って欲しかったと不満を述べるロイに、
「私に言っても仕方がないでしょう」
ずっとロイの愚痴を聞いていたルークはため息混じりそう言った。
「まぁでもアリア様は元が優秀ですからね。その上で手塩にかけてロイ様自ら育てたら当然の結果では?」
だから大事に育てて寝首でもかかれたらどうします? って言ったじゃないですか、と呆れ顔のルークに、
「こんな刺され方は想定してないっ」
ロイはそう反論する。
ダメージが大きすぎて何にもやる気がしないと本日の仕事をロイは放り投げることにした。
「そんなロイ様のために、せっかくうっかりロイ様あての報告書を1枚アリア様の分に混ぜといたのに」
お話しできませんでした? とルークは尋ねるが、
「うん、アレは本当に最悪のタイミングだった」
誤解が深まっただけだったと先日のやりとりを思い出し、ロイは深い深いため息をついた。
「この1年、俺は俺なりにアリアのことずっと大事にしてたつもりなんだけどなぁ」
本当に1ミリも伝わっていなかったんだろうかとロイはアリアと過ごした日々を振り返り、またため息をつく。
こんなに簡単に記入してしまえるほど、アリアにとって自分は軽い存在だったのだろうか?
アリアの心理など書いてあるわけもないのだが、投げた離縁状を引き寄せてロイはそれをじっと眺める。
間違いなく見慣れたアリアの筆跡。それを指でなぞったロイは、最後の一文字で指を止める。
「今日、だったな。ヒナの瘴気の浄化とアリアの護衛」
本日時渡りの乙女聖女ヒナが出向いている先は、瘴気の濃度的にはあまり平時と変わりなく、魔獣の暴走も確認されていない。
だが、アレクの割り出した瘴気発生予想地に該当したため、念の為ヒナに瘴気の浄化を依頼した。なにもなければおそらく本日中には戻るはずだ。
「俺、あんまり分の悪い賭け事って好きじゃないんだけどなぁ」
仕方ないとペンを手に取ったロイは、さらさらっと離縁状に名前を刻む。
「……本気ですか?」
あれだけ離婚する気はないと言っていたのにとルークは驚いて目を見開く。
「他に手がないからな。賭けてみることにする」
「賭け……ですか?」
書き終わった離縁状を眺めたロイは、
「この1年を、アリアとの時間を信じてみることにする」
決意を固めたようなロイの顔を見て、何か打開策を見つけたらしいと察したルークは、
「ご武運を」
決着が早く着く事を祈ってそうつぶやいた。