人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「お待たせいたしました、殿下」
そう声をかけられ、ロイはアリアの方に視線を向ける。久しぶりに会った彼女は淑女らしく礼をしてみせる。
着飾った彼女は相変わらず儚くて美しい、まさに絶世の美姫という言葉がピタリと当てはまる出立ちだった。
「本日もお美しいですね、姫。思わず見惚れてしまいました」
そう言って微笑みを浮かべたロイはアリアに手を伸ばす。
流れるようなスマートさでエスコートを申し出るロイを見ながら、アリアは言葉が上手く紡げず、小さくええと頷くので精一杯。
アリアは内心で不甲斐ない自分のひとり反省会を開始する。
(うぅ、初手は悪女らしく高飛車な感じで、"あら、相変わらずお上手ですこと"っていって妖艶に笑うつもりだったのにっ。いっぱい、鏡の前で練習したのに、できなかったぁぁあああ)
そんな心の叫びを表に出さないだけでも自分で自分を褒めてあげたいくらいなのだが、初手のしくじりが尾を引きそうだとアリアはこっそりため息をついた。
「それでは行きましょうか? 姫」
躊躇いがちに伸ばされたアリアの手を取り当たり前のように腕を組んで歩き出すロイを見ながら、アリアの心拍数は加速する。
(うわぁぁぁああ、本物の破壊力っ!! あんなに、あんなに、冷却期間置いたのに。いっぱい嫌な女になる練習したし、1回目の人生を思い出して復習したのにっ)
ロイの着飾った姿を見るのは当然初めてではない。このシーンだってアリアにとっては2回目だ。
だが、どうしようもなくロイがかっこよく見えて胸がときめく。そして、同じくらい背筋が凍る程の罪悪感を覚える。
「緊張しておいでですか?」
言葉数の少ないアリアを案じてか、ロイがそう言葉をかける。
「いいえ、仕事ですから」
今度はさらっと答えたアリアは内心でもう一度、これは仕事なのだとつぶやく。
(ごめんなさい、ヒナ)
この人は、自分のモノではない。1年後にやって来るヒナのモノだ。ロイにこうやって手を取ってエスコートされるのも、ロイがヒナと恋に落ちるまで。
(仕事だから、許して欲しい。決して、素手で触れたりしないから)
こんなふうにときめくのだって、気づかれないようにするから。
だから、少しの間隣にいる事を許して欲しい。なるべく早く、ここを空けるからとアリアは心の中で繰り返し自分に言い聞かせた。
「姫の今日のドレスは、とてもお似合いですね。今度、姫の好みをぜひお聞かせください」
隣から、ロイの優しい声が降ってくる。でも、この声音は作り物。
ロイのこうやって自分のことを気にかけてくれるところが好きだった。初めて会った時から、嫌な顔一つせず話を聞いてくれるところも。
だけど、今のアリアは知っている。これは、ロイが自分に興味を持ってくれているわけでも、好きだから知りたいと思ってくれているわけでもなく、今後効率よく物事を進めて行くための調査の一環でしかない、という事を。
「……頂いたドレスを着ずに申し訳ありません。今後は必要時デザイナーを寄越してください。その方が私の話を聞くよりもずっと効率的でしょう?」
そうとも知らず、ペラペラと中身のない話をし続けた1回目の自分は、ロイにとってどれだけ無駄で面倒な存在だったのだろう?
本当にロイが会話を楽しむ時は、髪に触れるなどスキンシップをとりながら、優しい目をして頷くのだ。例えば、ゆっくりお茶を飲みながら。あるいは、眠りに落ちるまでの甘い微睡の中で。ヒナにはいつもそうしていた。
そう声をかけられ、ロイはアリアの方に視線を向ける。久しぶりに会った彼女は淑女らしく礼をしてみせる。
着飾った彼女は相変わらず儚くて美しい、まさに絶世の美姫という言葉がピタリと当てはまる出立ちだった。
「本日もお美しいですね、姫。思わず見惚れてしまいました」
そう言って微笑みを浮かべたロイはアリアに手を伸ばす。
流れるようなスマートさでエスコートを申し出るロイを見ながら、アリアは言葉が上手く紡げず、小さくええと頷くので精一杯。
アリアは内心で不甲斐ない自分のひとり反省会を開始する。
(うぅ、初手は悪女らしく高飛車な感じで、"あら、相変わらずお上手ですこと"っていって妖艶に笑うつもりだったのにっ。いっぱい、鏡の前で練習したのに、できなかったぁぁあああ)
そんな心の叫びを表に出さないだけでも自分で自分を褒めてあげたいくらいなのだが、初手のしくじりが尾を引きそうだとアリアはこっそりため息をついた。
「それでは行きましょうか? 姫」
躊躇いがちに伸ばされたアリアの手を取り当たり前のように腕を組んで歩き出すロイを見ながら、アリアの心拍数は加速する。
(うわぁぁぁああ、本物の破壊力っ!! あんなに、あんなに、冷却期間置いたのに。いっぱい嫌な女になる練習したし、1回目の人生を思い出して復習したのにっ)
ロイの着飾った姿を見るのは当然初めてではない。このシーンだってアリアにとっては2回目だ。
だが、どうしようもなくロイがかっこよく見えて胸がときめく。そして、同じくらい背筋が凍る程の罪悪感を覚える。
「緊張しておいでですか?」
言葉数の少ないアリアを案じてか、ロイがそう言葉をかける。
「いいえ、仕事ですから」
今度はさらっと答えたアリアは内心でもう一度、これは仕事なのだとつぶやく。
(ごめんなさい、ヒナ)
この人は、自分のモノではない。1年後にやって来るヒナのモノだ。ロイにこうやって手を取ってエスコートされるのも、ロイがヒナと恋に落ちるまで。
(仕事だから、許して欲しい。決して、素手で触れたりしないから)
こんなふうにときめくのだって、気づかれないようにするから。
だから、少しの間隣にいる事を許して欲しい。なるべく早く、ここを空けるからとアリアは心の中で繰り返し自分に言い聞かせた。
「姫の今日のドレスは、とてもお似合いですね。今度、姫の好みをぜひお聞かせください」
隣から、ロイの優しい声が降ってくる。でも、この声音は作り物。
ロイのこうやって自分のことを気にかけてくれるところが好きだった。初めて会った時から、嫌な顔一つせず話を聞いてくれるところも。
だけど、今のアリアは知っている。これは、ロイが自分に興味を持ってくれているわけでも、好きだから知りたいと思ってくれているわけでもなく、今後効率よく物事を進めて行くための調査の一環でしかない、という事を。
「……頂いたドレスを着ずに申し訳ありません。今後は必要時デザイナーを寄越してください。その方が私の話を聞くよりもずっと効率的でしょう?」
そうとも知らず、ペラペラと中身のない話をし続けた1回目の自分は、ロイにとってどれだけ無駄で面倒な存在だったのだろう?
本当にロイが会話を楽しむ時は、髪に触れるなどスキンシップをとりながら、優しい目をして頷くのだ。例えば、ゆっくりお茶を飲みながら。あるいは、眠りに落ちるまでの甘い微睡の中で。ヒナにはいつもそうしていた。