人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
68.悪役姫は、走り出す。
「姫様は一体何を生成するおつもりですか?」
「へ?」
マリーの問いかけに、ぼーっとしていたアリアの意識が急に引き戻される。
「お菓子とは名ばかりの黒炭ばかり生産して。誰か毒殺したい人でもいるのですか?」
毒殺なんてまどろっこしいやり方より、直接出向いて殺ったほうが、姫様の力を存分に発揮できると思いますけど、と言われアリアは苦笑する。
「殺したいほど憎い相手なんて別にいないわよ」
マリーの言葉に反論しながらアリアは手元や作業台の上を見る。
おかしい。
気分転換にクレープを作ろうと思っていたはずなのに、何枚やっても生地が気付けば丸焦げで、まともなものが1枚もない。
「全く。やる事なくて暇だからって、マリーの仕事を錬成するのはおやめください」
後片付け大変じゃないですか、と文句を言ったマリーはアリアをマリー専用簡易キッチンから追い出す。
手持ち無沙汰になったアリアが、いっそのこと掃除でもしようかしらと箒を手に取ったところで、
「そんな状態では、危なくて何もさせられません。いっそ散歩でも行かれては?」
キッチンどころか離宮からも追い出されてしまった。
まぁ、確かにここのところ注意力散漫だった事は認める。
手紙を書こうとしてインクを落とし床や机を真っ黒にした回数は片手では足りないし、食事中はシルバーをうっかり何度も落としてしまうし、荊姫を使って鍛錬していたはずなのに気づけばいつのまにか裏山が伐採されているし。
他にも大小様々なやらかしをやっていて、それらを挙げらればキリがない。
マリーにも離宮の使用人達にもたくさん迷惑をかけてしまったなと落ち込んだアリアは大人しく散歩に出かけた。
ロイにヒナの今後について相談するつもりだったのに、はっきりとさよならを告げられてしまった次の日から、アリアはずっとこんな調子だった。
仕事に逃げようにも離婚間近の皇太子妃に任せてもらえるものはなく、騎士の仕事もそれ以外ロイから預かっていた仕事も全て取り上げられてしまった。
そんな状態でも時間は確実に流れて行く。
「今日で、最後……か」
今日がロイとの約束の日で、今日の正午の鐘をもって皇太子妃は返上となる。
物語から退場する事を希望して早1年。決まればあっという間だなとアリアは思う。
キルリアへの離縁の連絡はアレクが調整してくれるというし、アリアが動くまでもなくすでに話が通っているらしい。
調査が終わったら一緒に国に帰ろうねと嬉々として世話を焼いてくれるアレクが全部手配してしまったので、帰り支度も万全だ。
そうして手持ち無沙汰になり、時間ができれば頭に浮かんでくるのは、ロイに別れを告げられたあの夜の光景ばかりで、何度も何度も白昼夢のようにそれを思い出しては心が軋んだ。
「へ?」
マリーの問いかけに、ぼーっとしていたアリアの意識が急に引き戻される。
「お菓子とは名ばかりの黒炭ばかり生産して。誰か毒殺したい人でもいるのですか?」
毒殺なんてまどろっこしいやり方より、直接出向いて殺ったほうが、姫様の力を存分に発揮できると思いますけど、と言われアリアは苦笑する。
「殺したいほど憎い相手なんて別にいないわよ」
マリーの言葉に反論しながらアリアは手元や作業台の上を見る。
おかしい。
気分転換にクレープを作ろうと思っていたはずなのに、何枚やっても生地が気付けば丸焦げで、まともなものが1枚もない。
「全く。やる事なくて暇だからって、マリーの仕事を錬成するのはおやめください」
後片付け大変じゃないですか、と文句を言ったマリーはアリアをマリー専用簡易キッチンから追い出す。
手持ち無沙汰になったアリアが、いっそのこと掃除でもしようかしらと箒を手に取ったところで、
「そんな状態では、危なくて何もさせられません。いっそ散歩でも行かれては?」
キッチンどころか離宮からも追い出されてしまった。
まぁ、確かにここのところ注意力散漫だった事は認める。
手紙を書こうとしてインクを落とし床や机を真っ黒にした回数は片手では足りないし、食事中はシルバーをうっかり何度も落としてしまうし、荊姫を使って鍛錬していたはずなのに気づけばいつのまにか裏山が伐採されているし。
他にも大小様々なやらかしをやっていて、それらを挙げらればキリがない。
マリーにも離宮の使用人達にもたくさん迷惑をかけてしまったなと落ち込んだアリアは大人しく散歩に出かけた。
ロイにヒナの今後について相談するつもりだったのに、はっきりとさよならを告げられてしまった次の日から、アリアはずっとこんな調子だった。
仕事に逃げようにも離婚間近の皇太子妃に任せてもらえるものはなく、騎士の仕事もそれ以外ロイから預かっていた仕事も全て取り上げられてしまった。
そんな状態でも時間は確実に流れて行く。
「今日で、最後……か」
今日がロイとの約束の日で、今日の正午の鐘をもって皇太子妃は返上となる。
物語から退場する事を希望して早1年。決まればあっという間だなとアリアは思う。
キルリアへの離縁の連絡はアレクが調整してくれるというし、アリアが動くまでもなくすでに話が通っているらしい。
調査が終わったら一緒に国に帰ろうねと嬉々として世話を焼いてくれるアレクが全部手配してしまったので、帰り支度も万全だ。
そうして手持ち無沙汰になり、時間ができれば頭に浮かんでくるのは、ロイに別れを告げられたあの夜の光景ばかりで、何度も何度も白昼夢のようにそれを思い出しては心が軋んだ。