人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「魔獣ごときに、私が負けるとでも? 荊姫であるこの私が」
そう言ってマリーを見返すアリアの淡いピンク色の瞳に金と深紅の色が煌めく。
まるで、その大きな瞳の中にグリッターでも混ぜたように。
「よろしいので? 今日はウィーリアに嫁がれた姉君、フレデリカ様もアリア様にお会いするために会場にいらっしゃいますが」
すっと目を細めたマリーはアリアに確認するようにそう尋ねる。荊姫はもう何年も前に廃業したアリアの異名。そして、彼女は廃業を機に今日までその名を以って立ち振る舞ったことはない。
「別に誰にバレても構わないわ。お姉様はむしろお喜びになるのでは?」
軍事国家ウィーリア。その国との繋がりは今後の帝国の和平のために必要とロイは考えている。姉を通じて陛下と謁見機会を作れれば今回のアリアの目的も達成だ。
荊姫のファンである姉の前にその姿をさらすのはむしろ都合がいい。
(それに、私が荊姫だと知ればロイ様との破局も確実でしょう。短い結婚生活だったわ)
離婚してキルリアに帰ったら失恋旅行にでも出かけようとアリアは小さくため息をついた。
「承りました。姫様の御心のままに」
恭しく礼をしたマリーはアリアに掌に乗るほど小さな剣を差し出す。それを受け取ったアリアは、自身の掌を傷つけ剣に血を吸わせる。
「キルリア王家の血の下に、アリア・ティ・キルリアが命じる」
パァーッと光を帯びたその剣は宙に浮き、一瞬で棘のある蔦を纏った銀色の大剣へと変わる。
「あははは、あー久しぶり。魔剣ってこんな感じだっけ」
パシッと大剣を手に取ったアリアは感覚を確かめるように軽やかに空を切る。とても大剣とは思えない軽やかさで、アリアはそれを振り回し、ニヤリと笑う。
キルリア王家に受け継がれている王家の血を引く者にしか扱えない魔剣、荊姫。
その形状は持ち主によって変わると伝えられているが、当代魔剣の持ち主であるアリアがそれを使い戦う姿があまりに美しく、荊姫はいつしか魔剣を使うアリア自身の事を指す異名となった。
(まぁ、荊姫を廃業する前の話だけどね)
アリアは動きやすいように、ドレスにスリットを入れる。
もちろん、ドレスの下はそれを想定した黒タイツと短パン着用である。
「ふふ、負ける気がしない」
その剣を持ち佇む姿は、とても儚く美しい美女ではなく、まるで刑を執行する断罪人のようだ。
「あーあ、そんな楽しそうな顔しちゃって。どうなっても、私は知りませんからね! マリーは確かに止めましたよ?」
久しぶりに見た主人本来のいきいきとした姿にマリーは、あーあ、せっかく国を挙げてひた隠しにしてたのに、とため息を漏らして、
「ご武運を、荊姫」
とても楽しそうに魔剣を振り翳すアリアの背中を見送った。
そう言ってマリーを見返すアリアの淡いピンク色の瞳に金と深紅の色が煌めく。
まるで、その大きな瞳の中にグリッターでも混ぜたように。
「よろしいので? 今日はウィーリアに嫁がれた姉君、フレデリカ様もアリア様にお会いするために会場にいらっしゃいますが」
すっと目を細めたマリーはアリアに確認するようにそう尋ねる。荊姫はもう何年も前に廃業したアリアの異名。そして、彼女は廃業を機に今日までその名を以って立ち振る舞ったことはない。
「別に誰にバレても構わないわ。お姉様はむしろお喜びになるのでは?」
軍事国家ウィーリア。その国との繋がりは今後の帝国の和平のために必要とロイは考えている。姉を通じて陛下と謁見機会を作れれば今回のアリアの目的も達成だ。
荊姫のファンである姉の前にその姿をさらすのはむしろ都合がいい。
(それに、私が荊姫だと知ればロイ様との破局も確実でしょう。短い結婚生活だったわ)
離婚してキルリアに帰ったら失恋旅行にでも出かけようとアリアは小さくため息をついた。
「承りました。姫様の御心のままに」
恭しく礼をしたマリーはアリアに掌に乗るほど小さな剣を差し出す。それを受け取ったアリアは、自身の掌を傷つけ剣に血を吸わせる。
「キルリア王家の血の下に、アリア・ティ・キルリアが命じる」
パァーッと光を帯びたその剣は宙に浮き、一瞬で棘のある蔦を纏った銀色の大剣へと変わる。
「あははは、あー久しぶり。魔剣ってこんな感じだっけ」
パシッと大剣を手に取ったアリアは感覚を確かめるように軽やかに空を切る。とても大剣とは思えない軽やかさで、アリアはそれを振り回し、ニヤリと笑う。
キルリア王家に受け継がれている王家の血を引く者にしか扱えない魔剣、荊姫。
その形状は持ち主によって変わると伝えられているが、当代魔剣の持ち主であるアリアがそれを使い戦う姿があまりに美しく、荊姫はいつしか魔剣を使うアリア自身の事を指す異名となった。
(まぁ、荊姫を廃業する前の話だけどね)
アリアは動きやすいように、ドレスにスリットを入れる。
もちろん、ドレスの下はそれを想定した黒タイツと短パン着用である。
「ふふ、負ける気がしない」
その剣を持ち佇む姿は、とても儚く美しい美女ではなく、まるで刑を執行する断罪人のようだ。
「あーあ、そんな楽しそうな顔しちゃって。どうなっても、私は知りませんからね! マリーは確かに止めましたよ?」
久しぶりに見た主人本来のいきいきとした姿にマリーは、あーあ、せっかく国を挙げてひた隠しにしてたのに、とため息を漏らして、
「ご武運を、荊姫」
とても楽しそうに魔剣を振り翳すアリアの背中を見送った。