人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「ご無事ですか、お姉様。遅くなって申し訳ありません」

 振り返る事なくアリアはそう声をかける。

「ア、アリアっ!!」

 フレデリカはかっこいい妹の登場にほっとしたように、彼女の名を呼ぶ。

「お気を確かに。すぐ片付けますので」

 そう言ったアリアは対峙するフェンリルを睨みつける。
 フェンリルはうぅぅーっと唸り声を上げながら、なお襲い掛かろうと牙を剥く。
 久しぶりに振るう剣の重さと獲物とぶつかり合う音にアリアは歓喜しながら、それでも頭の片隅で"何故"と疑問が過ぎる。
 1回目の人生の時は、魔獣は一匹で襲われたのは逃げ遅れたアリアだった。
 ここは小説には描かれていないシーンだ。だからこそ自由度が高く、ロイに嫌われるような行動を起こせば離縁に一気持っていけると思っていた。
 確かに過去とは違う行動を取っているし、自身の魔剣まで解放した。
 だが、何故魔獣の数まで増えた?
 この過去との相違をどう解釈するべきかと一瞬アリアの意識がそれた瞬間、魔剣が鋭い爪で弾き飛ばされた。

「しまっ」

 そう思った時には地面にたたきつけられ、フェンリルに踏みつけられていた。

「っつ」

 みしみしと容赦なく力をくわえられ骨がきしむ。

「アリアっ!!」

 踏みつけられたアリアの後ろでフレデリカがそう叫ぶ。
 アリアはチッと舌打ちし、自身の肩を踏みつけるフェンリルの足を睨みつける。

「……痛いじゃない、ワンコ風情が」
 
 ウオォォォ----。
 雄叫びと共にアリアを踏みつけたままフェンリルの紅い目がフレデリカを捉える。
 ターゲットを変えたらしいと悟ったアリアは無理矢理肩を引き抜き、フェンリルの胴を蹴り上げると、

「うちのお姉様に手を出そうだなんて、とんだワンコもいたものね。伏せーーーー!!!!」

 近距離からそう叫んだ。
 アリアの声に驚いたように、フェンリルは怯む。その隙をついて魔剣を手に取ったアリアは一瞬でフェンリルの首を掻っ切って倒してしまった。
 フェンリルを倒した返り血でアリアのドレスと魔剣が紅く染まる。荊姫の名の所以通り、そのトゲのある蔦を纏ったその大剣にまるで深紅の薔薇が咲き誇る様だった。
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