人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「お見苦しい所をお見せいたしました。今すぐマリーを呼び離宮に下がりますので」

 このままここにいてはマズイとアリアの本能が警鐘を鳴らす。急いでベッドから起き上がろうとしたアリアの両腕を取ってロイは押し倒すような形でベッドに縫い留め、

「そう焦らずとも、いいでしょう。俺たちは夫婦なのだから。どうです? この後一緒に朝食でも」

 とにこやかな笑顔でそう言った。すぐそばにロイの顔があり、さらりと落ちてきたブルーグレイのロイの髪が顔に触れそうだ。
 何を考えているのかが全く読み取れない琥珀色の瞳がアリアの淡いピンク色の瞳を射抜く。
 もし、押し倒している相手がロイでなかったなら、アリアは容赦なく相手を蹴り飛ばし形勢を逆転させただろう。
 だが、相手は自分の好きな人で、前世の推しで、憧れの皇子様だ。こんな近距離で見つめられ、恋愛方面に免疫のないアリアが動揺しないわけがなかった。

「で、で、殿下っ! こ、これはそのっ、朝食に誘う体勢じゃないっていうか、そのっ、えっと、だから……」

 想定外の事に悪役姫らしいセリフなど浮かんでくるはずもなく、真っ赤になりながらしどろもどろに言葉を並べ拒否しようとするも上手くできず、アリアは琥珀色の瞳から逃れる方法が分からない。

「そうですね、でも俺達は夫婦ですし、朝起きれば口付けくらい交わすでしょう?」

 いや。
 いやいやいやいやいやいや。
 ヒナとはそうかもしれないが、自分とは1回目の人生だってそんなことはしていなかった。そもそも閨事が済めば寝ている間に居なくなるロイと朝まで一緒にいた事がなかったし、とぐるぐる目を回しながら低下する思考の中でアリアはそんな事を考える。
 第一なんでロイがそんなに"夫婦"を連呼するのかが分からない。離縁したいのだと確かに伝えたはずだし、結婚してから昨日に至るまで嫌われるような行動を取り続けていたはずなのに。
 アリアの両手を縫い留めていない方の手でアリアの頬をそっと撫で、ロイの顔が近づいてくる。
 吐息のかかる距離に耐えきれずアリアは顔を赤くしたまませめてもの抵抗でぎゅっと目を閉じた。
 だが、そこから先何も起きずアリアはそっと目を開ける。

「姫、悪女になりたいのなら、そこで目を閉じたらダメだろう。何をされても文句言えないぞ」

 少し呆れたような口調でロイはそういいながらアリアを解放した。
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