人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「……今度は、祝福できるかしら?」

 ぽつり、とアリアは自分に問いかける。ヒナが来るまでに離婚を成立させて、皇太子妃の座を明け渡しこの帝国を去るつもりだ。
 でも、もしそれが叶わなくてヒナと対面する事になった場合、あの光景を再び今度は当事者として見て、ちゃんと心から祝福できるかアリアには自信がなかった。

「だから、今回のチャンスは絶対ものにしなきゃ。誰に何を思われても。私が、私であるために」

 アリアは首を振って前を向く。まだ来ない2年後に怯えるよりも、今この瞬間に真剣に向き合わなくては。
 そう自分に言い聞かせたアリアは空に向かって猟銃を撃つ。一撃で、空を舞っていたキジが命を亡くし降ってきた。

「銃はやはり肩に負担がくる。昨日の今日じゃやっぱり、ちょっと厳しいわね」

 獲物の処理を終えたアリアは負傷している肩をさする。

「ハンティングナイフでクマ狩れるかしら? 配布された魔術札以外の魔法の使用不可がいたいなぁ」

 そうため息をついて、アリアは晴れ渡った空を仰ぐ。
 ロイは今、一体何匹仕留めただろう? 空の蒼さが目に染みて、急に泣きたい気持ちになった。

「私が優勝したら、王冠はお姉様に捧げましょう」

 アリアはパチンと頬を叩く。
 今回はハデスとフレデリカに協力依頼をしているので、おそらくハデスが優勝することはないだろう。
 昨日の夜会でも外交に首を突っ込む皇太子妃に対してひそひそと噂話をしていたのだ。今頃フレデリカは1人で出席したお茶会で、きっとアリアの振る舞いについて嫌味を聞かされているに違いない。
 そんなフレデリカを救出するためにハデスは早々に狩場から引き上げるはずだ。
 
「いいなぁ、お姉様達仲良くて」

 ぽつりと出た本音と一瞬浮かんだロイの顔に首を振ったアリアは、無理矢理自分の指を使って口角を上げる。

「笑顔、笑顔。いつか、私も、私に王冠捧げてくれる人に出会えるかもしれないしね」

 よし、と気合を入れ直したアリアはふとあげた視線の先、かなり遠くに魔法発動による気流が乱れる気配を感じる。

「……配られた術札以外の魔法の使用は禁止されているはずなのに」

 何故かすごく嫌な予感がする。そして、こういう時のアリアの勘は外れない。
 気配を消したアリアは、嫌な予感に向けて全力疾走を開始した。
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