人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
21.悪役姫は、旗印に選ばれる。
「……以上が今回のロイ様を害そうとした一派の報告です。引き続き調査を継続します」
ロイ付きの秘書官であるはルーク・ブラッドリーは淡々とした口調で経過を報告する。
「まぁ、いつも通りだな」
報告を受けてとてもつまらなそうにロイはそう口にする。
「青い薔薇の刺繍。ロイ様が追っていた闇オークションの会員でした。大元は今探っているところですが、刺繍から辿ってなかなかの検挙率でしたよ。相変わらず、恨み買いまくってますね、ロイ様」
「ホコリ叩いて逆ギレされても俺も困るんだけど。まぁ標的になって不正正すのも俺の仕事だからな」
そう言ってくれるなとロイはルークの言葉に肩を竦めた。
「でさぁ、殿下。投擲姫の方はなんか収穫あったんです? 仕事放り出して足繁く離宮に通ってるわりに、全然実りある報告上がってこないんすけど」
ロイの側で2人の会話を聞いていた護衛騎士のクラウド・グレーは雑談にでも混ざる様にロイに尋ねる。
「……ヒトの妻に変な渾名をつけないでくれるか?」
「いや、別に俺がつけたんじゃねぇし。騎士団ではみんなアリア姫のことそう呼んでますよ。いやぁー凄かったもんな。目を閉じた状態での的確なナイフ投げ」
あの日、狩猟大会の休憩所でアリアが暗殺者を仕留めたのを目撃した人間は多い。
そのナイフ投げの様子は日を随分経た今でも語り草で、誰が呼びはじめたのか今ではアリアの事を"投擲姫"と呼び、一部の者に人気らしい。
「フェンリルにしても洞穴に転がってた奴らにしてもウィーリアの陛下がやったって嘘でしょ? フェンリルに致命傷を与えたのが姫かどうかは分かんないですけど」
回収したフェンリルに残っていた斬撃のあとから見て、致命傷を与えたのはおそらく大剣だ。
あのアリアの細腕でそれが振り回せるとは到底思えないが、ハデスがあの魔獣騒動の時に手にしていた武器とは明らかに異なるのは疑いようのない事実だった。
「アリアはハデス殿がやったと言うし、ハデス殿はアリアが言うならそう言う事だという。この件を好きに処理して構わないが、アリアがハデス殿の妻フレデリカ様の妹だと忘れるなと脅し付きで。だからこれ以上この件について追求する気はない」
ハデスは嘘をつく気も取り繕うつもりもなく、アリアの関与を握り潰せと圧をかけた。
アリアの後ろには間違いなく軍事国家ウィーリアがついている。
今回ハデスと話す機会を得て、細い縁ができたのだ。今後のことを思えば目を瞑るくらい大したことではない。
「じゃあ、何しにわざわざ離宮に?」
結婚後放置していた姫の元になぜ、と首を傾げるクラウドに、
「ただ、顔を見に」
ロイはそう簡潔に答えた。
ロイは離宮でのアリアとの時間を思い出す。面会謝絶が解かれた日のように、アリアがクルクルと表情を変えることはなく、離宮を訪ねて言葉をかわしても、やはりどこかぎこちなく硬く身を強張らせている事が多い。
それでも最近のアリアは、少しずつ相手を知ろうとする視線を向けてくるようになったとロイは思う。
アリアがロイに向ける感情は、今までロイが辟易するほど向けられてきた視線とは違っていた。ロイに愛されたいという欲望も、押し付けがましい好意もなく、かと言ってこちらの内情を無遠慮に探ろうとする類いのものでもない。
『あなたが何を考えているのか知りたい』
あの淡いピンク色の瞳は、純粋にそう問うていた。
その視線が不快ではなかったことと、アリアが自分の事をどう読み解くのかということに対しての興味関心。
それがロイの足を離宮に向かわせた。
ロイ付きの秘書官であるはルーク・ブラッドリーは淡々とした口調で経過を報告する。
「まぁ、いつも通りだな」
報告を受けてとてもつまらなそうにロイはそう口にする。
「青い薔薇の刺繍。ロイ様が追っていた闇オークションの会員でした。大元は今探っているところですが、刺繍から辿ってなかなかの検挙率でしたよ。相変わらず、恨み買いまくってますね、ロイ様」
「ホコリ叩いて逆ギレされても俺も困るんだけど。まぁ標的になって不正正すのも俺の仕事だからな」
そう言ってくれるなとロイはルークの言葉に肩を竦めた。
「でさぁ、殿下。投擲姫の方はなんか収穫あったんです? 仕事放り出して足繁く離宮に通ってるわりに、全然実りある報告上がってこないんすけど」
ロイの側で2人の会話を聞いていた護衛騎士のクラウド・グレーは雑談にでも混ざる様にロイに尋ねる。
「……ヒトの妻に変な渾名をつけないでくれるか?」
「いや、別に俺がつけたんじゃねぇし。騎士団ではみんなアリア姫のことそう呼んでますよ。いやぁー凄かったもんな。目を閉じた状態での的確なナイフ投げ」
あの日、狩猟大会の休憩所でアリアが暗殺者を仕留めたのを目撃した人間は多い。
そのナイフ投げの様子は日を随分経た今でも語り草で、誰が呼びはじめたのか今ではアリアの事を"投擲姫"と呼び、一部の者に人気らしい。
「フェンリルにしても洞穴に転がってた奴らにしてもウィーリアの陛下がやったって嘘でしょ? フェンリルに致命傷を与えたのが姫かどうかは分かんないですけど」
回収したフェンリルに残っていた斬撃のあとから見て、致命傷を与えたのはおそらく大剣だ。
あのアリアの細腕でそれが振り回せるとは到底思えないが、ハデスがあの魔獣騒動の時に手にしていた武器とは明らかに異なるのは疑いようのない事実だった。
「アリアはハデス殿がやったと言うし、ハデス殿はアリアが言うならそう言う事だという。この件を好きに処理して構わないが、アリアがハデス殿の妻フレデリカ様の妹だと忘れるなと脅し付きで。だからこれ以上この件について追求する気はない」
ハデスは嘘をつく気も取り繕うつもりもなく、アリアの関与を握り潰せと圧をかけた。
アリアの後ろには間違いなく軍事国家ウィーリアがついている。
今回ハデスと話す機会を得て、細い縁ができたのだ。今後のことを思えば目を瞑るくらい大したことではない。
「じゃあ、何しにわざわざ離宮に?」
結婚後放置していた姫の元になぜ、と首を傾げるクラウドに、
「ただ、顔を見に」
ロイはそう簡潔に答えた。
ロイは離宮でのアリアとの時間を思い出す。面会謝絶が解かれた日のように、アリアがクルクルと表情を変えることはなく、離宮を訪ねて言葉をかわしても、やはりどこかぎこちなく硬く身を強張らせている事が多い。
それでも最近のアリアは、少しずつ相手を知ろうとする視線を向けてくるようになったとロイは思う。
アリアがロイに向ける感情は、今までロイが辟易するほど向けられてきた視線とは違っていた。ロイに愛されたいという欲望も、押し付けがましい好意もなく、かと言ってこちらの内情を無遠慮に探ろうとする類いのものでもない。
『あなたが何を考えているのか知りたい』
あの淡いピンク色の瞳は、純粋にそう問うていた。
その視線が不快ではなかったことと、アリアが自分の事をどう読み解くのかということに対しての興味関心。
それがロイの足を離宮に向かわせた。