人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
正直なところ、アリアはロイが今回新婚旅行と言ったこの遠出に全く期待などしていなかった。
が、今アリアはキラキラした目で本日の宿泊施設を見ている。
「お、温泉だぁーー!!」
アリアが連れて来られたそこは日本の旅館のような佇まいの宿だった。
世界観どうなってんの? なんてツッコミはこの際どうでもいい。
部屋こそ洋室の造りになっていて畳はなくベッドだったが、窓から見える庭園は2回目の人生で旅行したときに見た景色を彷彿させた。
備え付けの浴衣に下駄、硫黄の香り漂う露天風呂と室内風呂に加えて部屋にも小さな温泉付き。
これは、食事は和食で米が出るんじゃないかとアリアの期待値とテンションは爆上がりだ。
「うわぁ、やばい。感動し過ぎて手が震えて来た。とりあえず温泉! それからお庭を浴衣で散策して、夕飯はお部屋でゆっくり食べたいなぁ。お風呂2回はマストね」
ハイテンションなアリアに対して不思議そうに部屋の装飾品や浴衣などを見ていたマリーは、
「不思議な所ですね。何もかも見た事がないです。姫様、だいぶ素が出てますよ。というか、姫様はいつ温泉? と言うものを知ったのです?」
と冷静だ。その言葉にアリアはまずい、と我を取り戻す。
2回目の人生で旅行好きで女ひとり鄙びた温泉めぐりしてたとか、実は和食が恋しかったとか、温泉に来たなら卓球やりたいとか、そんな自分をマリーが知るわけがないのだ。
「ええーと、夢のお告げ的な?」
「別にいいです。姫様は嘘が下手なので、私にまでわざわざ嘘をつく必要はありません」
上手い言い訳が思いつかなかったアリアに、マリーはクスッと笑いかける。
「姫様がそうだと言うのならそうですし、全部を話す必要もありません。ただ、マリーはいつでも姫様の味方だと知っていてくれたらそれでいいです」
「……知ってる。ずっと前から、知ってるわマリー」
1回目の人生で道を外してしまった時身を挺して諌めてくれたのも、最期まで味方でいてくれたのもマリーだった。
1回目の人生で彼女を守りきれず、手を離してしまった自分を思い出し、アリアはマリーの手を握る。
「マリーいつもありがとう。私はマリーのことを一番信頼してる。親友であり、戦友だと思ってる」
「急にどうしたんですか? 姫様」
「言える時に言っておかないと後悔する気がしたの。ねぇ、せっかくの機会だもの、一緒にお風呂に行きましょ」
アリアは心から楽しそうに笑い、マリーを誘う。
「いけません、姫様。私は一介の侍女です。キルリアでは黙認されてましたけど、流石に自国を出て嫁がれた以上は」
嗜めるマリーの言葉を遮って、アリアはさらにマリーに願う。
「いいじゃない。だって、今は自由時間で離宮みたいに他の使用人の目もないし。キルリアにいた時みたいに、マリーと仲良くしたい」
そう淡いピンク色の瞳に請われては、マリーとしては断れない。
失礼を承知で言えば、幼少期からずっと仕えてきたこの姫をマリーは妹のように思っている。
加えてリベール帝国に嫁いで以降塞ぎがちだったアリアが、本来の彼女らしく天真爛漫にはしゃいでいるのだ。
「仕方ないですね。今回だけですよ」
ため息交じりにアリアの願いを聞き入れたマリーを見て、アリアの顔がぱぁっと明るくなる。
「じゃあ早速準備して、温泉にGOよ」
姫様私が、とマリーが静止するより早く、アリアは身支度を整えはじめてしまった。
やれやれ、とその背を見ながらこんな風にアリアが彼女らしく過ごせることを喜ばしく思う。
そして、そんな日が一日でも多くある事を願わずにはいられなかった。
が、今アリアはキラキラした目で本日の宿泊施設を見ている。
「お、温泉だぁーー!!」
アリアが連れて来られたそこは日本の旅館のような佇まいの宿だった。
世界観どうなってんの? なんてツッコミはこの際どうでもいい。
部屋こそ洋室の造りになっていて畳はなくベッドだったが、窓から見える庭園は2回目の人生で旅行したときに見た景色を彷彿させた。
備え付けの浴衣に下駄、硫黄の香り漂う露天風呂と室内風呂に加えて部屋にも小さな温泉付き。
これは、食事は和食で米が出るんじゃないかとアリアの期待値とテンションは爆上がりだ。
「うわぁ、やばい。感動し過ぎて手が震えて来た。とりあえず温泉! それからお庭を浴衣で散策して、夕飯はお部屋でゆっくり食べたいなぁ。お風呂2回はマストね」
ハイテンションなアリアに対して不思議そうに部屋の装飾品や浴衣などを見ていたマリーは、
「不思議な所ですね。何もかも見た事がないです。姫様、だいぶ素が出てますよ。というか、姫様はいつ温泉? と言うものを知ったのです?」
と冷静だ。その言葉にアリアはまずい、と我を取り戻す。
2回目の人生で旅行好きで女ひとり鄙びた温泉めぐりしてたとか、実は和食が恋しかったとか、温泉に来たなら卓球やりたいとか、そんな自分をマリーが知るわけがないのだ。
「ええーと、夢のお告げ的な?」
「別にいいです。姫様は嘘が下手なので、私にまでわざわざ嘘をつく必要はありません」
上手い言い訳が思いつかなかったアリアに、マリーはクスッと笑いかける。
「姫様がそうだと言うのならそうですし、全部を話す必要もありません。ただ、マリーはいつでも姫様の味方だと知っていてくれたらそれでいいです」
「……知ってる。ずっと前から、知ってるわマリー」
1回目の人生で道を外してしまった時身を挺して諌めてくれたのも、最期まで味方でいてくれたのもマリーだった。
1回目の人生で彼女を守りきれず、手を離してしまった自分を思い出し、アリアはマリーの手を握る。
「マリーいつもありがとう。私はマリーのことを一番信頼してる。親友であり、戦友だと思ってる」
「急にどうしたんですか? 姫様」
「言える時に言っておかないと後悔する気がしたの。ねぇ、せっかくの機会だもの、一緒にお風呂に行きましょ」
アリアは心から楽しそうに笑い、マリーを誘う。
「いけません、姫様。私は一介の侍女です。キルリアでは黙認されてましたけど、流石に自国を出て嫁がれた以上は」
嗜めるマリーの言葉を遮って、アリアはさらにマリーに願う。
「いいじゃない。だって、今は自由時間で離宮みたいに他の使用人の目もないし。キルリアにいた時みたいに、マリーと仲良くしたい」
そう淡いピンク色の瞳に請われては、マリーとしては断れない。
失礼を承知で言えば、幼少期からずっと仕えてきたこの姫をマリーは妹のように思っている。
加えてリベール帝国に嫁いで以降塞ぎがちだったアリアが、本来の彼女らしく天真爛漫にはしゃいでいるのだ。
「仕方ないですね。今回だけですよ」
ため息交じりにアリアの願いを聞き入れたマリーを見て、アリアの顔がぱぁっと明るくなる。
「じゃあ早速準備して、温泉にGOよ」
姫様私が、とマリーが静止するより早く、アリアは身支度を整えはじめてしまった。
やれやれ、とその背を見ながらこんな風にアリアが彼女らしく過ごせることを喜ばしく思う。
そして、そんな日が一日でも多くある事を願わずにはいられなかった。