人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
話も終わったしこれ以上邪魔しないように部屋に戻ろうとしたアリアは机に広げられた書類の山を見て、ふと疑問に思う。
「……殿下、旅行にまでわざわざ仕事を持ってこなくてはならないほど滞っていた理由ってもしや離宮に足繁く通っていたせいでは?」
そう、確か1回目の人生では、ほとんど仕事以外会えなかったし、ましてや新婚旅行など行った事も行こうと提案された事もない。
通常業務に加え、狩猟大会時の暴走した魔獣の対策会議、暗殺者の調査、あの時の各国との会談後の諸々の処理。もともと過重労働気味のロイに、そもそも離宮までアリアの顔を見に来たりましてや旅行に行くなんて余裕はなかったのではないだろうか? と。
じぃーっと詰め寄るようにアリアに見つめられ、ロイは明後日の方向に視線を泳がす。それを肯定と捉えたアリアは、深く大きなため息をこれみよがしについた。
「……バカなの?」
「時間っていうのは、作る物なんだぞアリア」
「もう、ホントに、あなたバカじゃないの? 作れてないし、ドヤらないでくれます?」
根を詰め過ぎたら人間死にますよ、と呆れた口調でそう言ったアリアは机の上の書類に視線を向け、
「手伝えるものとか、触っていいものとかあります? 見たらいけないものは見ないので」
翻訳とか要約とかは得意ですし、雑用ならできますと申し出た。
「流石に持ち出してまずいものは置いてきている。じゃあこの辺の書類の整理手伝ってくれるか? 分からない分はこっちに置いておいて」
文句を言いながらもそう申し出たアリアにクスッと笑ったロイは書類の束を渡して簡単に説明する。
大部分は終わっていたようでアリアが触れるものなど僅かだったが、アリアは黙々と仕事の手伝いをこなした。
「こっち終わりです。これとこれ要約して、こっち優先度高い順に整理してます」
「……早いな」
「キルリアでは、これでもそれなりに仕事持ってたので」
礼を言って受け取るロイにそっけなくそう答えたアリアは、
「ところで殿下、このペンケース破れてますけど新調しないんですか?」
借りた筆記用具をロイに返しながら尋ねる。布製のペンケースは、ずいぶん使い込まれて古びており、そして破れたままになっていた。細いペンならこの穴から落ちてしまいそうだ。
「ああ、これは替えがきかない。形見、なんだ」
まぁ流石に限界かなと苦笑したロイにアリアは手を出す。
「その、差し出がましいですが、直しましょうか? 簡単な刺繍ならできるので」
複雑な図案は無理ですが、と控えめに提案したアリアに、
「じゃあ、王家の紋章で」
にやっと笑ってロイが頼む。
「できるかぁーーーー!!」
簡単な奴って言ってるでしょうがっとイラッと言い返すアリアに、
「はは、冗談だ。狩猟大会ではくれなかったのにな。好きなの入れてくれ」
揶揄うように笑いながらそう言って、アリアの頭を撫でた。
2人の間に沈黙が落ちる。だが、それは当初アリアが部屋に来た時のような重いものではなく、同じ部屋に自分以外がいても心地よく感じる温かく静かな時間だった。
「……殿下、旅行にまでわざわざ仕事を持ってこなくてはならないほど滞っていた理由ってもしや離宮に足繁く通っていたせいでは?」
そう、確か1回目の人生では、ほとんど仕事以外会えなかったし、ましてや新婚旅行など行った事も行こうと提案された事もない。
通常業務に加え、狩猟大会時の暴走した魔獣の対策会議、暗殺者の調査、あの時の各国との会談後の諸々の処理。もともと過重労働気味のロイに、そもそも離宮までアリアの顔を見に来たりましてや旅行に行くなんて余裕はなかったのではないだろうか? と。
じぃーっと詰め寄るようにアリアに見つめられ、ロイは明後日の方向に視線を泳がす。それを肯定と捉えたアリアは、深く大きなため息をこれみよがしについた。
「……バカなの?」
「時間っていうのは、作る物なんだぞアリア」
「もう、ホントに、あなたバカじゃないの? 作れてないし、ドヤらないでくれます?」
根を詰め過ぎたら人間死にますよ、と呆れた口調でそう言ったアリアは机の上の書類に視線を向け、
「手伝えるものとか、触っていいものとかあります? 見たらいけないものは見ないので」
翻訳とか要約とかは得意ですし、雑用ならできますと申し出た。
「流石に持ち出してまずいものは置いてきている。じゃあこの辺の書類の整理手伝ってくれるか? 分からない分はこっちに置いておいて」
文句を言いながらもそう申し出たアリアにクスッと笑ったロイは書類の束を渡して簡単に説明する。
大部分は終わっていたようでアリアが触れるものなど僅かだったが、アリアは黙々と仕事の手伝いをこなした。
「こっち終わりです。これとこれ要約して、こっち優先度高い順に整理してます」
「……早いな」
「キルリアでは、これでもそれなりに仕事持ってたので」
礼を言って受け取るロイにそっけなくそう答えたアリアは、
「ところで殿下、このペンケース破れてますけど新調しないんですか?」
借りた筆記用具をロイに返しながら尋ねる。布製のペンケースは、ずいぶん使い込まれて古びており、そして破れたままになっていた。細いペンならこの穴から落ちてしまいそうだ。
「ああ、これは替えがきかない。形見、なんだ」
まぁ流石に限界かなと苦笑したロイにアリアは手を出す。
「その、差し出がましいですが、直しましょうか? 簡単な刺繍ならできるので」
複雑な図案は無理ですが、と控えめに提案したアリアに、
「じゃあ、王家の紋章で」
にやっと笑ってロイが頼む。
「できるかぁーーーー!!」
簡単な奴って言ってるでしょうがっとイラッと言い返すアリアに、
「はは、冗談だ。狩猟大会ではくれなかったのにな。好きなの入れてくれ」
揶揄うように笑いながらそう言って、アリアの頭を撫でた。
2人の間に沈黙が落ちる。だが、それは当初アリアが部屋に来た時のような重いものではなく、同じ部屋に自分以外がいても心地よく感じる温かく静かな時間だった。