人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「なんとかするのが、俺の仕事だよ」
「……そうやって、ずっとひとりで頑張ってきたんですか?」
沢山の持ちきれないほどの荷物を抱えて、たったひとりで。
誰からも頑張りを認められることも褒められる事もなく。
今までずっと。
(ヒナがくればきっと、ロイ様の心も癒されるのだろうけれど)
それまで、本音を吐露する事もできず、たったひとりで?
そう考えるとアリアは堪らなく泣きたい気分になった。
アリアは姉のフレデリカに言われた言葉を思い出す。
『夫婦っていうのは外から見ただけじゃ分からないことも沢山よ。運命の恋? 真実の愛? そんなものでどうにかなるなら誰も苦労しないわよ!』
全くもってその通りだ。
1回目の人生では、ロイの本来の姿と向き合う事も彼の葛藤や苦悩に気づく事もなく、ひとりで全部背負わせてしまった。
けれど、時間をかけて、言葉を重ねて、探り探り手を伸ばして、お互いを知ろうとした今ここにいるアリアは、それがどれほど苦しいことなのかを知っている。
(この人は、私のモノではないけれど)
ロイは、帝国の風潮に合わない自分を晒しても、アリア自身を見ようとしてくれた。
ロイは、規格外な方法で策を講じても叱らずに笑い飛ばしてくれた。
ロイは、自信を失っていたアリアに強くなれと言って、頑張りを認めて信頼をくれた。
ロイは、アリアが傷つくことがないように、沢山の気遣いと穏やかな時間をくれた。
そんな、ロイのために。
「できるならあなたの抱える苦労を一つでも払うことを、私が望むことは許されますか?」
それは、ヒナが来てロイが恋に落ちるまでのわずかな時間の刹那的関係でしかないだろうけれど。
今、彼の妻という立場を持っている自分にしかできないこともあるはずだ。
アリアからの問いかけに、しばし悩んだロイは、ゆっくりとアリアに手を伸ばし、アリアの頬に触れる。
とても近い距離で琥珀色の瞳にじっと見つめられたアリアは、目を閉じることも逸らすことも抵抗することもなく、ロイの選択に任せた。
「ありがとうな、アリア」
ロイはふっと表情を崩し、優しく微笑んでアリアの髪をゆっくり掬って撫でた。
「けど、俺は今アリアと関係を持とうとは思ってない」
やはり自分ではダメだったかと、アリアはゆっくり頷く。
「ごめん、なさい。余計なお世話でしたね」
目を伏せたアリアに、ロイはゆっくり言葉を落とす。
「そうじゃなくて、俺はアリアが心を許せると思うまで待ちたいと思っているから」
ロイはアリアの顎に指を添えて顔をあげさせ、目を合わせて笑う。
「言ったろ? 選ばせてやるって。同情心や義務感で自分を安売りするな」
「……別に、同情したわけではないんですけれど」
義務感がなかったとは言えない。
自分が拒むせいで、ロイに負担を強いているという負目は正直ある。
そんなアリアを見透かすようにじっと見てくる琥珀色の瞳は、ふむと頷き、
「じゃあ、偽装の手伝いでもしてもらおうか」
と言った。
「……そうやって、ずっとひとりで頑張ってきたんですか?」
沢山の持ちきれないほどの荷物を抱えて、たったひとりで。
誰からも頑張りを認められることも褒められる事もなく。
今までずっと。
(ヒナがくればきっと、ロイ様の心も癒されるのだろうけれど)
それまで、本音を吐露する事もできず、たったひとりで?
そう考えるとアリアは堪らなく泣きたい気分になった。
アリアは姉のフレデリカに言われた言葉を思い出す。
『夫婦っていうのは外から見ただけじゃ分からないことも沢山よ。運命の恋? 真実の愛? そんなものでどうにかなるなら誰も苦労しないわよ!』
全くもってその通りだ。
1回目の人生では、ロイの本来の姿と向き合う事も彼の葛藤や苦悩に気づく事もなく、ひとりで全部背負わせてしまった。
けれど、時間をかけて、言葉を重ねて、探り探り手を伸ばして、お互いを知ろうとした今ここにいるアリアは、それがどれほど苦しいことなのかを知っている。
(この人は、私のモノではないけれど)
ロイは、帝国の風潮に合わない自分を晒しても、アリア自身を見ようとしてくれた。
ロイは、規格外な方法で策を講じても叱らずに笑い飛ばしてくれた。
ロイは、自信を失っていたアリアに強くなれと言って、頑張りを認めて信頼をくれた。
ロイは、アリアが傷つくことがないように、沢山の気遣いと穏やかな時間をくれた。
そんな、ロイのために。
「できるならあなたの抱える苦労を一つでも払うことを、私が望むことは許されますか?」
それは、ヒナが来てロイが恋に落ちるまでのわずかな時間の刹那的関係でしかないだろうけれど。
今、彼の妻という立場を持っている自分にしかできないこともあるはずだ。
アリアからの問いかけに、しばし悩んだロイは、ゆっくりとアリアに手を伸ばし、アリアの頬に触れる。
とても近い距離で琥珀色の瞳にじっと見つめられたアリアは、目を閉じることも逸らすことも抵抗することもなく、ロイの選択に任せた。
「ありがとうな、アリア」
ロイはふっと表情を崩し、優しく微笑んでアリアの髪をゆっくり掬って撫でた。
「けど、俺は今アリアと関係を持とうとは思ってない」
やはり自分ではダメだったかと、アリアはゆっくり頷く。
「ごめん、なさい。余計なお世話でしたね」
目を伏せたアリアに、ロイはゆっくり言葉を落とす。
「そうじゃなくて、俺はアリアが心を許せると思うまで待ちたいと思っているから」
ロイはアリアの顎に指を添えて顔をあげさせ、目を合わせて笑う。
「言ったろ? 選ばせてやるって。同情心や義務感で自分を安売りするな」
「……別に、同情したわけではないんですけれど」
義務感がなかったとは言えない。
自分が拒むせいで、ロイに負担を強いているという負目は正直ある。
そんなアリアを見透かすようにじっと見てくる琥珀色の瞳は、ふむと頷き、
「じゃあ、偽装の手伝いでもしてもらおうか」
と言った。