人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

3.悪役姫は、推しカプに思いを馳せる。

 アリアが離宮に移り住み、ひと月たった。

(か、快適過ぎる……!!)

 アリアは離宮の生活に満足していた。
 あの日以来忙しいのか愛想をつかされたのかロイの離宮への来訪はなく、夜伽に呼ばれるどころか食事の誘いすらない。
 そのため結局帝国に嫁いでからロイとの接触はたったの2回。
 最初からこうするのが最適解だったのだとアリアは自分で自分を褒め称えたい気持ちで一杯だ。
 どうせ離婚するつもりなのだから、結婚直後から不仲説や仮面夫婦説が流れたってアリアとしては一向に構わなかった。

(むしろ、その方がいいのかもしれない)

 これは国同士が決めた愛のない結婚で、当人同士の関係は冷え切っていると周囲が認識していてくれた方が、ヒナが来た時より一層帝国の人たちに受け入れられ易いだろう。
 最も彼女はこの世界のヒロインなのだから、そんな気遣いなど不要なのかもしれないけれど。

(ヒナは、私がいようがいまいがどうせすぐ受け入れられるわ)

 だって、彼女は自分とは違いこの世界に必要な人間なのだから。
 とは言え、ヒナは別に自ら望んでこの世界に転移してくるわけではない。ある日突然この世界に呼ばれて強制的に連れて来られるのだ。
 愛する家族との別れもさせてもらえないまま、なんの心の準備もなく。
 そして、2度と元の世界には戻れない。

(ヤバい、考えただけで涙出てきた。ヒナ、絶対辛い)

 そんな世界だからこそ。

(ロイ様は、ヒナの側にいるべきだわ)

 せめて保護して側にいてくれる、愛する人くらいいなければやってられないじゃないかと、アリアは素直にそう思う。
 
(できれば会わずに済む事がベストだけれど、もし会う事があれば今度こそヒナに優しくしよう)

 間違っても、彼女を虐げることなどしないと改めて誓う。
 1年後にこの世界に来るヒナが、1回目の人生で会ったヒナとは限らないけれど。

(やっぱり、なるべく早く離婚してここから出て行かないとダメね)

 もし、ヒナが自分と同じく記憶を持って人生を繰り返していたり、転生しているのだとしたら、きっとあんな壮絶なイジメをした自分になど会いたくもないだろう。
 それにどうしても自分的に引っかかってしまう事がある。
 1回目の人生では、一夫多妻の国に嫁いだ姉もいたし、一夫一婦制の国でも王族や貴族が愛人を囲うなんてこの世界ではざらな事だったので、気にしていなかった。
 2回目の人生でも、フィクションとしてこの話を楽しんでいたので問題なかった。
 だが、今世は今までとは違う。2回目の人生で、この世界とは違う価値観や倫理観を知ってしまった今の自分は切に思う。

『現実世界での不倫、浮気、ダメ絶対!』

 これだけはどうしても譲れない。
< 8 / 183 >

この作品をシェア

pagetop