人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
「………アリアさん?」
「…………」
ようやく解放されたアリアは野生に返った小動物のように警戒心を滲ませて部屋にあるソファーの端っこで膝を抱えてうずくまっていた。
ロイの問いかけを無視して抱き抱えたクッションに顔を伏せたままのアリアに焦ったようにロイはそばによる。
「ちょっ、ホントごめんって。調子にのりました」
「知りません。もう、殿下なんて本当に知りません」
金輪際協力しませんからっと顔を伏せたままアリアは小さくそういう。
羞恥心で耳がまだ紅く染まっているアリアを見ながら、ロイはやり過ぎた事を後悔する。
「アリア」
「殿下なんか知りません」
「悪かった。本当に、俺が悪かった。物凄く反省してるから、隣座っていい?」
「イヤです」
若干泣き声のアリアに拒否されて、ロイは盛大にため息を漏らす。
それに反応して、アリアの肩がピクッと震える。それを見たロイは立ち上がり、アリアから離れていった。
パタンとドアの閉まる音がして、ロイが部屋から出て行った事を知る。どうやらこのまま向こうで寝るらしい。
ほっとしたような、寂しいようななんとも言えない感情が渦巻いて、アリアは泣き出しそうになる。
これ以上感情が掻き乱されるまえに、もう寝てしまおうと思ったアリアの肩にふわりと何かがかけられる。
視線を動かせば、真っ白なショールがかけられており、困った顔をしたロイが目に映った。
「とりあえず、ホットミルクでも飲んで落ち着いて欲しい。蜂蜜入れるか?」
ロイはどうやらこれらを取りに行っていたらしい。
「アリア、俺が悪かった。拗らせるのは嫌だから、今日のうちに仲直りしたい」
膝をついて、アリアの手を握り、琥珀色の瞳が懇願するように訴える。
「どうしたら許してくれる?」
そう尋ねるロイに、
「……私に呆れたんじゃないんですか?」
さっきため息ついてたじゃないですか、とアリアは冷たく言う。
「自分の理性の弱さにため息ついただけだ。カッコつけといて、結局アリアを傷つけてる」
アリアの淡いピンク色の瞳を見つめながらロイはそう弁明する。
「アリアが善意から申し出てくれてるの、分かってたはずなのにな。アリアがあまりにも可愛いから調子にのりました。本当にすみませんでした」
ロイはそう言うと深々とアリアに頭を下げた。そんなロイを見て、アリアは驚いたように目を大きくする。
ロイは、こんな風にはっきりと気持ちを言葉にするタイプではない。ヒナに愛を囁く時は別として、それ以外は多くを語らず事を進めていくタイプとして小説では描かれていたし、1回目の人生でロイと過ごしたときはこんな風に取り繕わない素のままで話してくれた事など1度だってなかったのに。
「……そんな、簡単に皇子様が謝っちゃダメでしょ」
「アリアの信頼を失いたくない」
キッパリとそう言ったロイを見て、アリアは再び驚く。
「やっとそばに寄ることを許してもらえるようになったのに、それがなくなるのは耐えがたい」
ロイは傅いてアリアの手を取り、
「アリア、どうしたら許してくれる?」
まるで叱られた子どものようにそういうロイの事が可愛く見えてアリアは小さく笑う。
「本当にごめん、アリア」
まるでとても大事なものでも扱うようにアリアの手に自分の額をつけて許しを乞うロイのブルーグレーの髪をそっと撫でる。
撫でられて顔を上げたロイの琥珀色の瞳に熱が灯っているように見えて、アリアは戸惑い、すぐに内心で否定した。
(この人は、私のものではないのに。また勘違いするところだった)
頭に浮かんだことを振り払うように、アリアはロイから手を離す。
(そんな事、あるはずないのに。自分に都合よく解釈するなんて、私には学習能力がないのかしら?)
ロイがアリアに対して恋することも愛することもなく、そう見える全部は自分の願望が生んだ幻想だ、とアリアは自分に言い聞かせるように認識を刻みつける。
(また、勘違いして破滅するなんてごめんよ)
少なくとも、自分とロイの間にはそんなものは芽生えない。
だから、勘違いをしてはいけない。
「……もう、いいです」
アリアはロイの視線から目を逸らした。その琥珀色の瞳で見られたらまた、愛されているのではないかと勘違いしてしまいそうだったから。
「いいって顔してない」
確かにいいとは思っていない。でも、このままでいるのは居心地が悪い。
なお食い下がるロイから離れなくては、と本能的に思ったアリアは、
「じゃあ、お星様をください。両手に抱えきれないくらい沢山」
と、無理難題をふっかけた。
「……星」
ふむと頷いたロイは、
「分かった。次回呼ぶ時は用意しておく」
約束と子どもみたいに小指同士を絡めてとても優しくそう言った。
「…………」
ようやく解放されたアリアは野生に返った小動物のように警戒心を滲ませて部屋にあるソファーの端っこで膝を抱えてうずくまっていた。
ロイの問いかけを無視して抱き抱えたクッションに顔を伏せたままのアリアに焦ったようにロイはそばによる。
「ちょっ、ホントごめんって。調子にのりました」
「知りません。もう、殿下なんて本当に知りません」
金輪際協力しませんからっと顔を伏せたままアリアは小さくそういう。
羞恥心で耳がまだ紅く染まっているアリアを見ながら、ロイはやり過ぎた事を後悔する。
「アリア」
「殿下なんか知りません」
「悪かった。本当に、俺が悪かった。物凄く反省してるから、隣座っていい?」
「イヤです」
若干泣き声のアリアに拒否されて、ロイは盛大にため息を漏らす。
それに反応して、アリアの肩がピクッと震える。それを見たロイは立ち上がり、アリアから離れていった。
パタンとドアの閉まる音がして、ロイが部屋から出て行った事を知る。どうやらこのまま向こうで寝るらしい。
ほっとしたような、寂しいようななんとも言えない感情が渦巻いて、アリアは泣き出しそうになる。
これ以上感情が掻き乱されるまえに、もう寝てしまおうと思ったアリアの肩にふわりと何かがかけられる。
視線を動かせば、真っ白なショールがかけられており、困った顔をしたロイが目に映った。
「とりあえず、ホットミルクでも飲んで落ち着いて欲しい。蜂蜜入れるか?」
ロイはどうやらこれらを取りに行っていたらしい。
「アリア、俺が悪かった。拗らせるのは嫌だから、今日のうちに仲直りしたい」
膝をついて、アリアの手を握り、琥珀色の瞳が懇願するように訴える。
「どうしたら許してくれる?」
そう尋ねるロイに、
「……私に呆れたんじゃないんですか?」
さっきため息ついてたじゃないですか、とアリアは冷たく言う。
「自分の理性の弱さにため息ついただけだ。カッコつけといて、結局アリアを傷つけてる」
アリアの淡いピンク色の瞳を見つめながらロイはそう弁明する。
「アリアが善意から申し出てくれてるの、分かってたはずなのにな。アリアがあまりにも可愛いから調子にのりました。本当にすみませんでした」
ロイはそう言うと深々とアリアに頭を下げた。そんなロイを見て、アリアは驚いたように目を大きくする。
ロイは、こんな風にはっきりと気持ちを言葉にするタイプではない。ヒナに愛を囁く時は別として、それ以外は多くを語らず事を進めていくタイプとして小説では描かれていたし、1回目の人生でロイと過ごしたときはこんな風に取り繕わない素のままで話してくれた事など1度だってなかったのに。
「……そんな、簡単に皇子様が謝っちゃダメでしょ」
「アリアの信頼を失いたくない」
キッパリとそう言ったロイを見て、アリアは再び驚く。
「やっとそばに寄ることを許してもらえるようになったのに、それがなくなるのは耐えがたい」
ロイは傅いてアリアの手を取り、
「アリア、どうしたら許してくれる?」
まるで叱られた子どものようにそういうロイの事が可愛く見えてアリアは小さく笑う。
「本当にごめん、アリア」
まるでとても大事なものでも扱うようにアリアの手に自分の額をつけて許しを乞うロイのブルーグレーの髪をそっと撫でる。
撫でられて顔を上げたロイの琥珀色の瞳に熱が灯っているように見えて、アリアは戸惑い、すぐに内心で否定した。
(この人は、私のものではないのに。また勘違いするところだった)
頭に浮かんだことを振り払うように、アリアはロイから手を離す。
(そんな事、あるはずないのに。自分に都合よく解釈するなんて、私には学習能力がないのかしら?)
ロイがアリアに対して恋することも愛することもなく、そう見える全部は自分の願望が生んだ幻想だ、とアリアは自分に言い聞かせるように認識を刻みつける。
(また、勘違いして破滅するなんてごめんよ)
少なくとも、自分とロイの間にはそんなものは芽生えない。
だから、勘違いをしてはいけない。
「……もう、いいです」
アリアはロイの視線から目を逸らした。その琥珀色の瞳で見られたらまた、愛されているのではないかと勘違いしてしまいそうだったから。
「いいって顔してない」
確かにいいとは思っていない。でも、このままでいるのは居心地が悪い。
なお食い下がるロイから離れなくては、と本能的に思ったアリアは、
「じゃあ、お星様をください。両手に抱えきれないくらい沢山」
と、無理難題をふっかけた。
「……星」
ふむと頷いたロイは、
「分かった。次回呼ぶ時は用意しておく」
約束と子どもみたいに小指同士を絡めてとても優しくそう言った。