人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

39.悪役姫は、嵌められる。

 もしも今世、ロイに好かれるような奇跡が起きたとしても、その未来は選ばない。憧れた小説の主人公ではなく、今目の前にいるロイに幸せになって欲しいから。
 アリアは小説に書いてある通りとはいかないけれど、当て馬になってヒナとロイの縁組を後押しする事を決めた。
 そのためにも当初のようにロイと距離を取ろう、そう思っていたのだが。

「なぜ、殿下が当たり前のように離宮にいるのでしょうか?」

「遅かったなアリア。妻に会いに来るのに理由など必要だろうか?」

 キラキラとした嘘くさい笑顔を浮かべてロイは当然のようにアリアを出迎える。その笑顔に当てられたように離宮の侍女たちがざわめく声が微かに聞こえた。

「まぁ、私も殿下に非常にお会いしたかったですわ。ですが、殿下は今重要な案件にかかられていて、私などのために時間を使わせるなんて烏滸がまし過ぎます。せっかく来ていただいたというのに、なんのお構いもできませんわ。先触れを出して頂けましたら、ご準備もいたしましたのに」

 人目を意識し、舌打ちを控えたアリアはロイに負けないくらいキラキラとした作り笑顔でそう応戦する。

「はは、着飾らなくてもアリアはいつも綺麗だよ。恥ずかしがり屋の君を身構えさせたくなくてね」

 アリアからの嫌味をさらっと交わし、楽しそうに言い返して来たロイに内心でため息をついたアリアは、

「マリー」

 と頼れる侍女の名前を呼んだ。
 その先を言わずとも心得ているかのように他の侍女たち全てを下がらせ、あっという間に人払いをしてくれた。

「で、何用です? 今日も来るなんて聞いてませんけど?」

「はは、アリアも嫌味が上手くなったな。"お前、この超絶忙しい時期に仕事離脱して行方くらました挙句私を巻き込むんじゃねぇよ"って? 先触れ出したら逃げるくせによく言う」

 遅かったなといつもの口調に切り替えたロイは、先程のアリアのセリフを意訳する。

「……冗談、言ってる場合ですか」

 呆れたようにそう言ったアリアは、今度は隠す事なくロイにため息をついた。

「殿下。あなたこんなところで油売ってる場合ではないでしょう? この前だってルークが酷く焦って迎えに来たではないですか」

 冗談ではなく、この時期のロイはかなり仕事が立て込んでいる。
 1回目の人生のときには知らなかったが、2回目の人生で読んだ小説には、今から1年後にロイに反旗を翻す反乱分子の資金源である裏カジノについて、実はこの時期から秘密裏に調査をしていたということが明かされていた。
 聖女と共に暴走する魔獣の討伐をする傍ら、瘴気を生成し魔獣を狂わす黒幕を追いかける過程で反乱分子とやり合い窮地に立たされたりする……わけなのだが。
 そんな展開に関係する調査をしなきゃいけない時期に何のんきに連日嫁のいる離宮でくつろいでるのこの人は! とアリアは声を大にして叫びたい。
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