人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する

42.悪役姫は、先の展開を案じる。

 手首にはめた琥珀色の石のついたブレスレットに少し魔力を流せば転移魔法が起動し、目を開けた次の瞬間には湖の辺りに移動していた。
 風が少し冷たくて確実に季節が流れている事を体感する。

「今日もここは静かね」

 ふふっとアリアは上機嫌でそうつぶやく。
 あの日ロイと星を見上げた夜との違いは、彼がここにいない事とある日突然設置されたベンチがあることだろうか。

「うーん、今日も一日よく働いたぁー」

 アリアはベンチに腰掛けて身体をほぐすように伸びをして空を仰ぐ。
 夜空を見上げれば、相変わらず零れ落ちそうなくらい沢山の星々が瞬いていて、アリアは感嘆の声を上げる。

「絶景独り占めなんて贅沢」

 そんな事を口にしながら、アリアは鼻歌交じりに持参した晩酌セットを取り出す。

「はぁぁ〜さっすがマリー分かってる!」

 飲み過ぎたらダメですよと言いながら渡された本日のお酒はキルリア産の赤ワインとオシャレに可愛いピックで止められた1口サイズのオードブル。
 早速チーズを手に取って、星を見ながらアリアは一人で晩酌をはじめた。

「あと、3か月……か」

 アリアは対岸をぼんやり眺めながらぽつりとつぶやく。
 あと3か月すれば、あそこにヒナが現れる。空から女の子が降ってくるのは、様式美なのかしら? と思いつつ長い黒髪をたなびかせて元気に可憐に走り回る彼女の姿を思い出す。

「ヒナは、可愛い。きっと、異世界転移する前もモテたんだろうなぁ」

 1回目の人生ではあっという間にロイと距離を縮めて行ったように見えたけど、2人の間には色んなやり取りや葛藤があったのよねぇとワインを飲みながらアリアは2回目で読んだ小説の内容を思い出す。

「まぁ、主な葛藤というか、障壁悪役姫()なんだけど。不倫はやっぱりダメよね」

 うーんとアリアは頭を悩ますもどう頑張ってもあと3か月でロイが急に離縁を受け入れてくれるとは思えない。

「今時点での離縁はほぼほぼ不可能なので、やっぱり当て馬頑張ろー。JK相手に泥沼不倫に走るロイ様見たくないし。こう、2人にとっていい感じに障害になりつつ、背徳感とか葛藤とかをスパイスに恋が盛り上がるようにアシストして、離縁状にサインもらってフェードアウトかな、うん。私がいなくなった後で存分に愛を育めばいいさ」

 うんうん、とアリアはひとり頷きつつ、

「って、そんな高等技術持ってないわっ!!」

 とひとりツッコミを入れる。

「う〜ん、私にできるのってせいぜいヒナがロイ様と沢山接点持てるようにするくらい? まぁでもそれだけでも、効果あるのかな? 沢山、言葉を交わせば2人ともきっとお互いに惹かれ合うんだろうし」

 惹かれ……ちゃうんだろうな、お互いとアリアはロイの顔を思い浮かべて、顔を伏せた。
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