人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
この帝国で早く自分の立場を、そしてロイとの関係を確かなものにできるように早く子どもが欲しい、と思っていた1回目の人生。
ロイが世界の全てだと思い込んでいたあの時の自分はもういない。
騎士というやりがいのある仕事を持ち、ロイ以外の人間との関わりも持ち、やりたいと思ったことに手を伸ばせる環境に身を置いている3回目の人生では、1回目の人生で抱えていた真っ黒な感情もどうしようもない焦燥感も持ってはいない。
それでも、時折1回目の人生の自分に引っ張られたらどうしよう、と不安になる。
「ヒナがもし、1回目の時のヒナなら潔く謝ろう。記憶、なくても……謝って、絶対、今度は良くしてあげるんだ」
アリアは自分にそう言い聞かせる。
これは、彼と彼女の物語。悪役姫は、なる早で退散しなくては。
そう、思うのに。
「……私、やっぱり学習能力ないのかもしれない」
ロイから貰った飴玉のたくさん入った瓶を取り出して、アリアはそれを大事に抱える。
「……無理、してないといいな」
帝国に来てからのロイとの時間を思い、アリアはそっとため息をつく。
クラウドに聞いた仕事のために拘束されているらしいロイの様子を思い出す。
『"アリアに会いたい"ってうるさくって』
そんな自分が大変な時まで私の事を考えなくていいのに、と思う一方で、嬉しいと思ってしまった自分も確かにいるのだ。
「……こんな感情なんて、私はもういらないんだけどな」
ロイの中に自分の事を想う感情が見えた気がして、それに手を伸ばしたくなった自分を叱責する。
「好きになったって、この先辛い事しか待ってない」
好きになってはいけない人。
結ばれる相手が決まっている人
一緒にいたところで幸せになる未来が見えない人。
「不毛、過ぎる。うん、何度考えてもなしだわ」
よし、仕事に生きようと自分の方針を明確にしたアリアは、ワインを一杯飲み干して、ごろんとベンチに横たわる。
アリアが横になっても余裕で余りあるほど大きなサイズのベンチだから、きっとロイもこうして星を見ているのだろう。
ロイが仕事から解放されたら、エンカウントしないように、ここを利用したい時は予定を尋ねてからにしようとぼんやり考えていたアリアの頭上にふと影が落ちる。
「ヤバい、寝てなさすぎてアリアの幻が見える」
聞き覚えのある低い声はいつもより眠そうな響きをしていて、だけど琥珀色の瞳は驚きで見開かれている。
「……えっと、お久しぶりです殿下」
こんな体勢で挨拶するのもいかがなものかと思うが、さっきまで考えていた相手が突然目の前に現れて、アリアはどう反応するのが正しいのか分からず、ぎこちなくそういうのが精一杯だった。
ロイが世界の全てだと思い込んでいたあの時の自分はもういない。
騎士というやりがいのある仕事を持ち、ロイ以外の人間との関わりも持ち、やりたいと思ったことに手を伸ばせる環境に身を置いている3回目の人生では、1回目の人生で抱えていた真っ黒な感情もどうしようもない焦燥感も持ってはいない。
それでも、時折1回目の人生の自分に引っ張られたらどうしよう、と不安になる。
「ヒナがもし、1回目の時のヒナなら潔く謝ろう。記憶、なくても……謝って、絶対、今度は良くしてあげるんだ」
アリアは自分にそう言い聞かせる。
これは、彼と彼女の物語。悪役姫は、なる早で退散しなくては。
そう、思うのに。
「……私、やっぱり学習能力ないのかもしれない」
ロイから貰った飴玉のたくさん入った瓶を取り出して、アリアはそれを大事に抱える。
「……無理、してないといいな」
帝国に来てからのロイとの時間を思い、アリアはそっとため息をつく。
クラウドに聞いた仕事のために拘束されているらしいロイの様子を思い出す。
『"アリアに会いたい"ってうるさくって』
そんな自分が大変な時まで私の事を考えなくていいのに、と思う一方で、嬉しいと思ってしまった自分も確かにいるのだ。
「……こんな感情なんて、私はもういらないんだけどな」
ロイの中に自分の事を想う感情が見えた気がして、それに手を伸ばしたくなった自分を叱責する。
「好きになったって、この先辛い事しか待ってない」
好きになってはいけない人。
結ばれる相手が決まっている人
一緒にいたところで幸せになる未来が見えない人。
「不毛、過ぎる。うん、何度考えてもなしだわ」
よし、仕事に生きようと自分の方針を明確にしたアリアは、ワインを一杯飲み干して、ごろんとベンチに横たわる。
アリアが横になっても余裕で余りあるほど大きなサイズのベンチだから、きっとロイもこうして星を見ているのだろう。
ロイが仕事から解放されたら、エンカウントしないように、ここを利用したい時は予定を尋ねてからにしようとぼんやり考えていたアリアの頭上にふと影が落ちる。
「ヤバい、寝てなさすぎてアリアの幻が見える」
聞き覚えのある低い声はいつもより眠そうな響きをしていて、だけど琥珀色の瞳は驚きで見開かれている。
「……えっと、お久しぶりです殿下」
こんな体勢で挨拶するのもいかがなものかと思うが、さっきまで考えていた相手が突然目の前に現れて、アリアはどう反応するのが正しいのか分からず、ぎこちなくそういうのが精一杯だった。