人生3度目の悪役姫は物語からの退場を希望する
43.悪役姫は、友達申請を断られる。
アリアは今、無心で素数を数えていた。
4001まで数えたところで、
「うぅ……」
と小さなうめき声が聞こえ、
「っ!! 殿下、起きました!?」
アリアの懇願するような問いかけに返事はなく、代わりに規則正しい寝息が返ってきた。
「なんで……こんな事にっ」
もうっと文句を言おうとして、アリアはロイの安らかな寝顔と目の下のクマを見て、
「本当に、今日だけですからね」
仕方なさそうにつぶやいて、ロイの枕代行を継続する事にした。
最もガッツリ腰に腕を回されているので、逃げようもないのだけど。
時間は数刻前に遡る。
ロイが小説の後半部分をぶち壊して来たらしいと知ったアリアが、ヒロインの登場を案じていると、
「アリアの差し入れ美味かった。アレなんてお菓子? 何回聞いてもクラウド忘れてくるから結局分からず仕舞いなんだけど」
「エナジーバー美味しいですよね。私も忙しいときよく食べてました」
2回目の人生で。と内心で付け足したアリアは、役に立てたようで良かったと笑った。
クラウドからは手紙の1枚でもと言われたが、ロイの性格や状況から寝食疎かにして缶詰状態なんだろうなと思ったアリアは、2回目の人生で大変お世話になったエナジーバーを手作りする事にした。
2回目の人生で何度か作った事があるものだったので記憶を頼りにマリーに手伝ってもらい、ドライフルーツ入りのものやジンジャー入りなど何種類か作り、何度かクラウドに預けて届けてもらったのだが、お気に召したらしい。
「あれ常食にしようかな」
「身体壊しますよ」
なにげにカロリー高いしと思ったけれど、消費の激しいロイには不要の心配かと抱きしめられたときの体つきを思い出して、赤面しそうになった。
「ご無事で、何よりです。殿下、今日は星を眺めてないでおやすみになってはいかがです? ひどい顔ですよ」
心配そうにアリアがそう言うと、
「大丈夫、星じゃなくてアリア眺めてるから」
と揶揄うような口調でそんな言葉が返ってきた。
「…………眠いんですね、分かります。寝ましょう」
「アリアと一緒に?」
「私も離宮に戻ります。夜伽に呼ばれてませんので、お部屋にお伺いするわけにはまいりません」
「じゃあ今呼ぶ」
「正式な知らせ今から出せないでしょうが。何を子どもみたいな事を言って」
とアリアが断ろうとすると、ロイはアリアのシャンパンゴールドの長い髪を軽く引き、
「少しだけ」
と言って髪に口付けを落とす。
「明日から、また拘束されてしばらく顔を見に行くことも叶わない。だから、少しだけ一緒にいてくれないか?」
今まではアリアが否と言えばすぐに引いていたのに、なぜか今日に限ってロイの態度は頑なで、懇願するその琥珀色の瞳にアリアの気持ちは揺れ動く。
こんなに疲れていて、今すぐにだって休みたいだろうに、とアリアは思う。
なのにあんな態度をとって"あなたを選ばない"と宣言した、仮初の妻との時間をこの人は所望するのか、と。
「少し、だけです。呼ばれてもいないのに、人に見られるとマズイし」
そんなロイから後ろ髪を引かれるように離れがたいと思ってしまうのは、少し酔いが回っているせいなのかもしれないと、アリアはお酒のせいにした。
4001まで数えたところで、
「うぅ……」
と小さなうめき声が聞こえ、
「っ!! 殿下、起きました!?」
アリアの懇願するような問いかけに返事はなく、代わりに規則正しい寝息が返ってきた。
「なんで……こんな事にっ」
もうっと文句を言おうとして、アリアはロイの安らかな寝顔と目の下のクマを見て、
「本当に、今日だけですからね」
仕方なさそうにつぶやいて、ロイの枕代行を継続する事にした。
最もガッツリ腰に腕を回されているので、逃げようもないのだけど。
時間は数刻前に遡る。
ロイが小説の後半部分をぶち壊して来たらしいと知ったアリアが、ヒロインの登場を案じていると、
「アリアの差し入れ美味かった。アレなんてお菓子? 何回聞いてもクラウド忘れてくるから結局分からず仕舞いなんだけど」
「エナジーバー美味しいですよね。私も忙しいときよく食べてました」
2回目の人生で。と内心で付け足したアリアは、役に立てたようで良かったと笑った。
クラウドからは手紙の1枚でもと言われたが、ロイの性格や状況から寝食疎かにして缶詰状態なんだろうなと思ったアリアは、2回目の人生で大変お世話になったエナジーバーを手作りする事にした。
2回目の人生で何度か作った事があるものだったので記憶を頼りにマリーに手伝ってもらい、ドライフルーツ入りのものやジンジャー入りなど何種類か作り、何度かクラウドに預けて届けてもらったのだが、お気に召したらしい。
「あれ常食にしようかな」
「身体壊しますよ」
なにげにカロリー高いしと思ったけれど、消費の激しいロイには不要の心配かと抱きしめられたときの体つきを思い出して、赤面しそうになった。
「ご無事で、何よりです。殿下、今日は星を眺めてないでおやすみになってはいかがです? ひどい顔ですよ」
心配そうにアリアがそう言うと、
「大丈夫、星じゃなくてアリア眺めてるから」
と揶揄うような口調でそんな言葉が返ってきた。
「…………眠いんですね、分かります。寝ましょう」
「アリアと一緒に?」
「私も離宮に戻ります。夜伽に呼ばれてませんので、お部屋にお伺いするわけにはまいりません」
「じゃあ今呼ぶ」
「正式な知らせ今から出せないでしょうが。何を子どもみたいな事を言って」
とアリアが断ろうとすると、ロイはアリアのシャンパンゴールドの長い髪を軽く引き、
「少しだけ」
と言って髪に口付けを落とす。
「明日から、また拘束されてしばらく顔を見に行くことも叶わない。だから、少しだけ一緒にいてくれないか?」
今まではアリアが否と言えばすぐに引いていたのに、なぜか今日に限ってロイの態度は頑なで、懇願するその琥珀色の瞳にアリアの気持ちは揺れ動く。
こんなに疲れていて、今すぐにだって休みたいだろうに、とアリアは思う。
なのにあんな態度をとって"あなたを選ばない"と宣言した、仮初の妻との時間をこの人は所望するのか、と。
「少し、だけです。呼ばれてもいないのに、人に見られるとマズイし」
そんなロイから後ろ髪を引かれるように離れがたいと思ってしまうのは、少し酔いが回っているせいなのかもしれないと、アリアはお酒のせいにした。