犬飼くんはむずかしい
「犬飼くんが休んでいたときの授業内容を、教科ごとにノート別にしてるから。良かったらもらってほしい」
犬飼くんは、私が手渡したノートをペラペラと捲りだした。
「これ、あんたが作ったの? えーと、」
「上野でいいよ。一応分かりやすくまとめたつもりなんだけど」
「上野さんどーも、助かった。なによりすごく分かりやすい。で、こっちは?」
作成したリストをジッと眺めている犬飼くん。
「ああ、うん。それはクラスリスト。少しでも早く覚えた方がいいかなって。で、赤文字はクラスのムードメーカー的存在の永上くんの字。私より何倍もクラスの子を知り尽くしてるから」
ほら、あの子だよと、隅で他の子と喋っている永上くんを指差す。
犬飼くんはげんなりした目で見ていた。
「…………ああ、アイツ」
マズイ。さすがに何かフォローをしないと。
「え、えっと永上くんは誰とでも仲が良い爽やかな性格で。だから……馴れ馴れしいのは仕方ないというか……」