犬飼くんはむずかしい



 「少しだけあるクセってどういうクセですか」と聞くことはできずに、犬飼くんのために自分ができることを精一杯やり遂げようと思った。



 けれど、何も思いつかない。唯一思い浮かぶこととすれば、犬飼くんのために一週間分のノートを書き写すことだった。



 準備しているかもしれないけれど教科ごとに犬飼くんのノートを用意し、夜になると授業であった内容を書き写すという作業を開始した。



 犬飼くんが見ていかに分かりやすく理解してくれるかと、そのことばかり考えていた私は、授業で分からないところがあると先生に尋ねるということをひたすら繰り返した。



 とうとう予定では明日、犬飼くんが初登校してくる。つまり、もう時間がない。



 出席番号順の名前と似顔絵、更には一人一人の特徴を私なりにまとめていると、「上野、上野ー」と、斜め後ろの永上くんが私に話しかけてきた。


「なに?」



 永上くんは良い人だと思う。



 けれど、時間が無い私は永上くんと話している時間さえ惜しく感じる。「見て分からない? 今忙しいんですけど」というような視線を送った。

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