犬飼くんはむずかしい


「切羽詰まるような感じで何かしてるけど、何してんの?」


「明日から犬飼くんが登校してくるかもしれないから。早く馴染めるようにリストを作ってるの」


「ふーん、見せて?」



 どうしても見たいのだろう、手を差し出してきた永上くん。



 しぶしぶまとめていた髪を手渡す。永上くんは「よくまとめてるねー」と感心していた。


「でも、これ情報めちゃめちゃ偏ってね? 付け足していい?」


 ……まさかそう言われるとは。私がいかに特定の人物としか仲良くしていないのかが知られてしまったような気がする。


 けれど、永上くんは分け隔てなくクラスの皆と仲良くすることができる。永上くんから見た皆の情報を書き出したいと思った。



「私と区別がつくように書いてくれる?」


「じゃあ俺、赤い字で書くわ。それで書き終わったら上野に返すから」


「うん。そうしてくれると助かる」



 時間が惜しいと感じるほど一生懸命作成していたのに、気づけばそのリストは永上くんに渡ってしまっていた。クラスの皆と仲良くできる人は、さりげなく自分のペースに持ち込むことができるんだ。



 ……自分には持っていない明るさを持っている永上くんが、ただただ羨ましい。

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