犬飼くんはむずかしい


 真っ先に犬飼くんに挨拶をしようと思っていたのに、永上くんが泣きそうな声で私の名前を呼ぶため意識が永上くんに向いてしまう。



 犬飼くんの横を通り過ぎ、隅にいる永上くんに「もう、うるさいよ!」と、朝に交わす第一声とは思えないことを言ってのけた。



 永上くんは私の手を握り、「俺、無理無理! 犬飼クン無理!」と小声で騒いでいる。



 クラスのムードメーカー的存在の永上くんだ。



 既に犬飼くんには挨拶を済ませているのだろう。なので、

「なにが無理なの? 永上くんだったら仲良くできるって」

 励ましながらも聞いてみる。



「いや、無理! だってバッチバチの不良だもん。耳にすげぇピアス穴あってさ! ガンつけられたし、『殺すぞ』的な目で見られたんだって!」



「永上くん、ちょっとうるさ……いや、落ち着きがないからね。苦手な人は一定数いるんじゃないかな? もう行っていい?」



「もう少し俺を心配して! 俺、犬飼クンの後ろの席なんだって! 永上だから!」



 今この一瞬で、私の永上くんへの見方が「ムードメーカー」から「ただ騒がしい人」になってしまった。

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