犬飼くんはむずかしい


 会話も普通にしてくれるし、今のところなんの問題もない。が、気になることが一つあった。



「犬飼くんはなんでこの学校に入ったの?」



 ピアスを外してまで、髪を染めてまで何で、犬飼くんはこの学校に入学したのか気になった。



 犬飼くんは眉間に皺を寄せ、髪をクシャッと掻いた。なにか、思い出したくないことを思い出させてしまっているような気がする。



「あの、犬飼くん。無理にとは――」


「この学校が今住んでるところから近かったし、俺の地元から遠かったから。ただ、それだけだよ」


 到底、ただそれだけのようにはみえないけれど、地元から遠いということは一人暮らしをしているんだろうか。 



「犬飼くん、家族と住んでないの?」


「まあな。今は従兄弟の家に世話になってる」



 …………従兄弟の家。



 詳しい事情は分からないけれど、先生が言うように特別クセが強いてわけではなさそうだ。



 少しずつ犬飼くんと仲良くなれたらいいなと思えた。



 ――今なら受け取ってくれるかもしれない。



 鞄の中から授業の一週間分のノートを教科ごとに分けたものと、永上くんの協力の元に無事に完成したクラスリストを取り出し、『はい、これ』と手渡した。

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