悪役令嬢と臆病な子犬
病院を出て、美緒の自宅に戻った。自分の自宅というには違和感がある。
「いま、温かい飲み物を用意するからヴィニータさんはソファーに座ってて。」
渚はそう言うと、美緒の家の戸棚を色々開け始めた。どうやらどこに何があるのか確認している様子だった。
「…あなた、初めてここに来たの?」
つい尋ねてしまった。
「……。」
一瞬、渚の体に緊張が走ったように感じた。
不味い…。
もしかすると、彼はこの体の持ち主である美緒の恋人では無いのかもしれない。私が何もわからない事をいい事に恋人のふりをしているのかもしれない。恋人なのに自宅に招待しないなんてないだろ。
「まだ付き合いだしたばかりだった。会うのはいつも俺の家だったから、ここにきたのは初めてだが、この家の合鍵を渡されている。それくらい彼女に信頼されている関係だ。」
そう言いながら鍵を見せてくれた。
勘違いでよかった。
戸棚からカップを出すと、何かを取り出してカップに入れ、見たことない機械を操作すると火がなくともお湯がカップに注がれた。
暫くすると紅茶の良い香りがしてきて心が落ち着いた。
「美緒はいつも甘めのミルクティーを飲んでいだ。ヴィニータさんは?」
「ストレートが良いです。」
テーブルにのカップが置かれると彼は医者に言われたことを話し始めた。
「医者の話によれば、どうやら美緒は辛い出来事があって記憶を失い、君と言う人格が生まれたそうだ…。」
「記憶は失っておりません。両親、姉との思い出は幼い頃からの記憶がしっかりと残っております。」
「美緒はよく本を読んでいた。それは本のストーリーから作られた記憶かもしれない…。」
「いいえ、魂だけ入れ替わったと言われた方がしっくりと致します。」
「…そうか。」
渚は納得していないような顔をしていた。それなので生まれた国や家族や友達、文化などをなるべく細かく伝えた。
「俺は専門家じゃないからな…。何が本当で正しいかなんて分からない。でも、医者からは君がヴィニータと言うなら頭ごなしに否定しないように言われた。」
「何か証明になるとがあれば宜しいのですが…。」
何か手掛かりになるものがないかと、部屋を見渡した。
あっ…。
「えっ…。」
突然、私が立ち上がったので渚は驚いて見ていた。本がたくさん並ばられている棚に近づき一冊の本を手に取った。
『バラの令嬢』
この本の背表紙には我が家ウォルダム家の家紋が描かれていた。
「…なぜ、我が家の家紋がこの本に。」
「やっぱり、君の人格は過去に美緒が読んだ本の中の人物になぞられて作られたんじゃないのか?」
渚はスキンシップが多い。背後にピッタリとくっつき、そっと後ろから私の髪を少しかき分けて首元にキスをした。
「おやめ下さい。」
「大好きな美緒を目の前にしてるんだ。少しくらい良いだろ?」
「私の世界ではそのような行為は結婚してからになります。未婚でするのは娼婦くらいでございます。」
「娼婦って…。その身体は君のではなく美緒の何だろ?なら触れるくらい…。」
「中身は私でございます。申し訳ございませんがわたくしである間はその様な触れ合いはご遠慮下さいませ。」
渚は何もできないとわかるとため息をつきながらソファーに戻った。
「すっかりお貴族様だな…。」
そんな言葉を無視して本を手に取りパラパラと開いてみた。
「渚…この本には私の名前が…。」
「って事は、君の人格の元になったのはその本で決定だな。」
「美緒という名前もございます。」
「はっ!?なんだって?」
パッと開いたページはヴィニータがファビオ第一王子に連れられて舞踏会に行くシーンだった。
「……アルベルト様。」
ファビオ様の従兄弟であるアルベルト様とのダンスシーン。彼とのダンスは何度も夢見ていたが立場上、踊る事は叶わなかった…。
何故ならファビオ様と婚約している身でありながら、一度でも手を重ねてしまったら自分の気持ち、アルベルト様への想いが溢れてしまうのではないかと恐れがあったからだ。
定期的にファビオ様にお会いするためにお城へと通っていた。その際にアルベルト様が鍛錬されている姿を何度も目にし、いつの間にか恋に落ちていた。
私の気持ちは誰にもバレてはいけないものだった。
しかし、ファビオ様の護衛を務める彼とは嫌でも顔を合わせてしまう。だから顔を合わせるたびに気持ちを必死に殺した。
「『自殺をした後に目が覚めるとヴィニータになっていた。』と書いてある…。だけど、そんな事って現実的じゃない。」
渚は私が開いたページを上から読んでいた。
「美緒が自殺ってどういう事?」
渚からはそんな話は一言も出ていない。彼も知らなかったのだろうか?
「……嘘だ。美緒はこうやって俺の目の前にいるじゃないか…。」
「わたくしはヴィニータでございます。あなたのいう美緒ではございません。おそらくここに書かれているように美緒と私は入れ替わってしまったのかもしれません。」
「俺がなにか異変に気付いていれば…。」
嗚咽しながら涙を流している渚を見守ることしかできなかった。
「ご自分を責めないでくださいませ。彼女にも自殺に至るやむを得ない理由が…。」
「……その理由が俺なんだ。」
私から奪い取った手紙を見せられた。
「いま、温かい飲み物を用意するからヴィニータさんはソファーに座ってて。」
渚はそう言うと、美緒の家の戸棚を色々開け始めた。どうやらどこに何があるのか確認している様子だった。
「…あなた、初めてここに来たの?」
つい尋ねてしまった。
「……。」
一瞬、渚の体に緊張が走ったように感じた。
不味い…。
もしかすると、彼はこの体の持ち主である美緒の恋人では無いのかもしれない。私が何もわからない事をいい事に恋人のふりをしているのかもしれない。恋人なのに自宅に招待しないなんてないだろ。
「まだ付き合いだしたばかりだった。会うのはいつも俺の家だったから、ここにきたのは初めてだが、この家の合鍵を渡されている。それくらい彼女に信頼されている関係だ。」
そう言いながら鍵を見せてくれた。
勘違いでよかった。
戸棚からカップを出すと、何かを取り出してカップに入れ、見たことない機械を操作すると火がなくともお湯がカップに注がれた。
暫くすると紅茶の良い香りがしてきて心が落ち着いた。
「美緒はいつも甘めのミルクティーを飲んでいだ。ヴィニータさんは?」
「ストレートが良いです。」
テーブルにのカップが置かれると彼は医者に言われたことを話し始めた。
「医者の話によれば、どうやら美緒は辛い出来事があって記憶を失い、君と言う人格が生まれたそうだ…。」
「記憶は失っておりません。両親、姉との思い出は幼い頃からの記憶がしっかりと残っております。」
「美緒はよく本を読んでいた。それは本のストーリーから作られた記憶かもしれない…。」
「いいえ、魂だけ入れ替わったと言われた方がしっくりと致します。」
「…そうか。」
渚は納得していないような顔をしていた。それなので生まれた国や家族や友達、文化などをなるべく細かく伝えた。
「俺は専門家じゃないからな…。何が本当で正しいかなんて分からない。でも、医者からは君がヴィニータと言うなら頭ごなしに否定しないように言われた。」
「何か証明になるとがあれば宜しいのですが…。」
何か手掛かりになるものがないかと、部屋を見渡した。
あっ…。
「えっ…。」
突然、私が立ち上がったので渚は驚いて見ていた。本がたくさん並ばられている棚に近づき一冊の本を手に取った。
『バラの令嬢』
この本の背表紙には我が家ウォルダム家の家紋が描かれていた。
「…なぜ、我が家の家紋がこの本に。」
「やっぱり、君の人格は過去に美緒が読んだ本の中の人物になぞられて作られたんじゃないのか?」
渚はスキンシップが多い。背後にピッタリとくっつき、そっと後ろから私の髪を少しかき分けて首元にキスをした。
「おやめ下さい。」
「大好きな美緒を目の前にしてるんだ。少しくらい良いだろ?」
「私の世界ではそのような行為は結婚してからになります。未婚でするのは娼婦くらいでございます。」
「娼婦って…。その身体は君のではなく美緒の何だろ?なら触れるくらい…。」
「中身は私でございます。申し訳ございませんがわたくしである間はその様な触れ合いはご遠慮下さいませ。」
渚は何もできないとわかるとため息をつきながらソファーに戻った。
「すっかりお貴族様だな…。」
そんな言葉を無視して本を手に取りパラパラと開いてみた。
「渚…この本には私の名前が…。」
「って事は、君の人格の元になったのはその本で決定だな。」
「美緒という名前もございます。」
「はっ!?なんだって?」
パッと開いたページはヴィニータがファビオ第一王子に連れられて舞踏会に行くシーンだった。
「……アルベルト様。」
ファビオ様の従兄弟であるアルベルト様とのダンスシーン。彼とのダンスは何度も夢見ていたが立場上、踊る事は叶わなかった…。
何故ならファビオ様と婚約している身でありながら、一度でも手を重ねてしまったら自分の気持ち、アルベルト様への想いが溢れてしまうのではないかと恐れがあったからだ。
定期的にファビオ様にお会いするためにお城へと通っていた。その際にアルベルト様が鍛錬されている姿を何度も目にし、いつの間にか恋に落ちていた。
私の気持ちは誰にもバレてはいけないものだった。
しかし、ファビオ様の護衛を務める彼とは嫌でも顔を合わせてしまう。だから顔を合わせるたびに気持ちを必死に殺した。
「『自殺をした後に目が覚めるとヴィニータになっていた。』と書いてある…。だけど、そんな事って現実的じゃない。」
渚は私が開いたページを上から読んでいた。
「美緒が自殺ってどういう事?」
渚からはそんな話は一言も出ていない。彼も知らなかったのだろうか?
「……嘘だ。美緒はこうやって俺の目の前にいるじゃないか…。」
「わたくしはヴィニータでございます。あなたのいう美緒ではございません。おそらくここに書かれているように美緒と私は入れ替わってしまったのかもしれません。」
「俺がなにか異変に気付いていれば…。」
嗚咽しながら涙を流している渚を見守ることしかできなかった。
「ご自分を責めないでくださいませ。彼女にも自殺に至るやむを得ない理由が…。」
「……その理由が俺なんだ。」
私から奪い取った手紙を見せられた。