悪役令嬢と臆病な子犬
外に出ると今いる世界が自分が生まれ育った世界とまったく違うと明らかだった。
見たことのない服装の人々や、あまりにも高い建築物。何もかもが初めて見るものばかりで驚きのあまり声も出なかった。

「車に乗って。」

渚がそう言うと黒い小さなものを手にした。すると『ピッピ』と音がし、白く大きな物の目が光る。
その現象にも驚き立ち尽くすことしかできないでいた。

「はぁー…。」

渚はため息を付くと私の方へ近づき白くて大きな物の扉を開けた。

「乗って。」

中を覗き込むと椅子のようなものがあり、恐る恐る中へと入りこみ座ると渚は扉を閉め反対側の扉を開けると私の隣に座った。
そして私の方を向くと帯のようなものを引き出して私を椅子へと固定した。

「何をされるのですか!拘束されずとも逃げたり致しません。」

「これはシートベルト。お前を縛り付けるものじゃない。これに乗っている間、安全を守るものだ。ほら見ろ、俺も今から付ける。」

渚も私と同じようにシートベルトを引き出して自分を椅子に固定した。

 …馬車の中みたいだけど意外と狭い。

渚がボタンを押すと、この白い物体が振動し始め、話しだした。

『行き先を登録してください。』

声の感じからすると女性なのだろう。しかし、渚は女性を無視したままだった。
そして、何やら渚が操作すると白い物体は馬も牛もいないのに動き始めた。

「こ…これは魔道具なのでしょうか?」

「何言ってんだよ。ただの車だろ。」

「車…ですか。」

「機械だよ。移動するための道具だが魔法何て使ってない。ガソリンという燃料で動いている。」

「機械ですか…。」

車は馬車よりも早く移動しているが乗り心地は安定していた。何よりも椅子が柔らかくて車が弾んでもお尻が痛くなることは無かった。
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