悪役令嬢と臆病な子犬
「美緒、何があっても動かずにここで待っててくれ。」

「ええ、承知しました。こちらでお待ちしております。」

診察が終わった美緒を待合室に残し、呼びに来た看護師と共に医者の所へと向かった。
医者には恋人が自殺未遂を起こしたと説明していた。

「…つまり、現実逃避ということですか?」

「簡単に言うとそうですね。外傷もありませんし…。重村(しげむら)さんにとって耐えがたいことがあって記憶を封じ、新たな人格が芽生えたのではないでしょうか…。記憶喪失。多重人格。と言ったところじゃないでしょうか…。何かつらい出来事とか聞いてませんか?」

「まぁ、つらい出来事はあることにはありましたが…。」

レイプされそうになったと手紙に書いてあった。睡眠薬を飲んで自殺をするくらいだ。よほど酷い目にあったのだろう。

「睡眠薬についてですが、血液検査の結果は問題なさそうです。今後、同じことが起きない様に注意してあげてください。今後、精神科を受診されることをお勧めします。」

「はい。わかりました。彼女とご両親と相談して改めて受診致します。」

医者にお礼を言い診察室を出た。
睡眠薬の影響が体に残っていないと分かったのでまずはホッとした。

手紙の内容からすると俺の周りにいる女の中で美緒の事を良く思っていない奴がいる。そして、そいつが主犯で美緒を襲わせたのだ。

 一体誰なんだ??

待合室へもどると先ほどと同じ場所に美緒が座っていた。

「えーっと。名前なんだたかな?」

「ヴィニータでございます。」

「ヴィニータさん、悪いが少し君の体を抱きしめさせてくれ…。」

「…少しだけでしたら。」

「ありがとう。」

彼女の許可を取ると美緒の体を優しく抱きしめた。

 …もう一生手放さない。
 
 …何があっても守り抜く。

今までの自分の甘さを払拭し、強く心で誓った。
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