悪役令嬢と臆病な子犬
目を開けると、ふかふかのベッドに天蓋から美しいドレープが垂れていた。
睡眠薬を大量に飲んだのは覚えているので、もしかするとここは天国なのだろうか…。

「ヴィニータ様、お目覚めのお時間でございます。」

 ヴィニータ?

 誰の事?

メイドの様なお仕着せ姿の女性が明らかに私に向かって話しかけている。

「ヴィニータって私のこと?」

「もちろんでございます。このお屋敷にいらっしゃるヴィニータ様はヴィニータ・イサドレア・ウォルダム様。お嬢様だけでございます。」

 ヴィニータ・イサドレア・ウォルダム…どこかで聞いたことがある名前。

 そうだ。以前読んだ小説に出てくる意地悪な妹の名だ。

『バラの令嬢』という小説で簡単に言うとシンデレラストーリーだ。妹に意地悪をされ続けた姉のアデライデが妹の婚約者である国の第一王子に助けられ結ばれるという話だった。
この話はハッピーエンドなはずなのに、どうしてもしっくりこなくてずっと捨てずに本棚に眠っていた。
歳を重ねて読み返せばもしかすると結末に納得するかもしれないと思ったからだ。

何に納得ができなかったかというと、姉のアデライデのミスや失敗をひたすらヴィニータのせいにして押し付けているようにしか受け取れなかったのと、第一王子から申し込んだ婚約のはずなのに簡単に姉に乗り換え最後はヴィニータを処刑させるのだ。
それはまるで口封じに感じた。

もしここが『バラの令嬢』の物語の世界だとしたら…。

 私ってば最後に処刑されちゃう!!

 やっと渚への想いをあきらめて、イジメから解放されたのに…。

「ヴィニータ様、本日の第一王子ファビオ様との舞踏会はどちらのドレスをお召しになりますでしょうか?」

 どちらのドレスと言われても…。そもそもどんなドレスがあるかなんてわからないわっ!

「第一王子のファビオ様って…。婚約っていつ決まったんでしたっけ?」

メイドに軽く探りを入れてみる。

「昨年の夜会にてお嬢様に一目惚れされたと旦那様もとへ婚約の申し込みにいらしてましたが…。」

第一王子の名前も婚約の流れも『バラの令嬢』と同じ。

「私の姉の名前ってアデライデよね?」

「はい、アデライデ様でございます。」

メイドはおかしな質問する私を不思議がった表情で見ていた。

 ああ、これで確定だわ。今私は『バラの令嬢』の世界にいるんだわ。

となると、今は小説の中のどのページまで進んでいるかが大事になる。もしかすると今後の行動により、処刑を避けられるかもしれないからだ。
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