アッシュフィールド公爵夫妻の偽りの日々と存在しない愛~あなたの愛や絆は期待していませんのでご心配なく~

古代獣

『大広間に戻りましょうか』

 ノーラにそう提案しかけた。

「おお、見ろ。まるで古代獣みたいだ。あの意地悪な目つき。大人も子どもも餌食になる獲物を待ち構えているようだ。人間、ああはなりたくはないな。いつも能天気に笑って生きる方が心も体も健康でいられる」

 その瞬間、クレイグが呑気につぶやいた。そのあまりにもおどけた言い方に、自分がひどく臆病になっていることに気がついた。

 なにも怖気づく必要なんてないわ。

 わたしは、アッシュフィールド公爵夫人なのよ。堂々としていればいいの。

 自分にそう強く言いきかせる。
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