アッシュフィールド公爵夫妻の偽りの日々と存在しない愛~あなたの愛や絆は期待していませんのでご心配なく~
 ちなみに、いまの世はドラゴンや魔物や妖精は絶えて久しい。この世界のどこかにいるとしても、少なくともこのホルスト王国だけでなく、この大陸にはいないかもしれない。

 だから、魔物を見たことがない。子どもの頃のお話以来、そんな話すらしたことがない。

「猫系の魔物のような」というのは、あくまでも想像である。

「シャーッ!」

 シュッ!

 どうでもいいことを考えていると、すさまじい勢いと速さでなにかが両手の甲をかすった。

「痛いっ」

 そう認識したとき、手の甲に血の筋が走っていた。

「ひどいわ。ひどすぎる」

 なんてことなの。シャルロットがわたしの両手をひっかいたのである。
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