アッシュフィールド公爵夫妻の偽りの日々と存在しない愛~あなたの愛や絆は期待していませんのでご心配なく~
「ちょ、弔問? どうして公爵が?」
「隣人だからだ。ご近所付き合いは大事だからな」

 ほんとうの公爵は、ひきこもりでみたいなものである。それが「隣人は大事」って、笑っちゃうわ。

「それに、故人の唯一の後継者の面倒をみる役目を仰せつかっている」
「なんだって?」

 故人の弟夫妻たち、それからその娘たちは一様に驚いた。

 かくいうわたしもである。

「マイスイートハート、故人に挨拶はすんだかい?」

 コリンは、強面の腕をねじり上げたまま尋ねた。しかし、だれに尋ねたのかわからなかった。だから、キョロキョロと彼が尋ねた相手をキョロキョロして捜してしまった。

「愛するミヨ。故人に挨拶がすんだのなら、そろそろお暇しようか?」

 コリンの美貌にはやさしい表情が浮かんでいる。そして、やさしい声音は、いい具合にテノールで耳に心地いい。
 それでやっと、彼がわたしに尋ねているのだと気がついた。

『マイスイートハート』

 その言葉が脳内をリフレインしている。
 ううっ、気味が悪すぎてうなじがザワザワする。

「え、ええ。コリン様、もうすませました」
「ならば、帰ろう」

 コリンは、強面の腕をねじり上げている方の腕を軽くひねった。

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