アッシュフィールド公爵夫妻の偽りの日々と存在しない愛~あなたの愛や絆は期待していませんのでご心配なく~

く、口づけ? いまここでする?

「一人にしてすまなかった」

 コリンは、わたしを抱きしめている。

 っていうか、彼に抱きしめられている。しかも、美貌が近づいてくる。

「怖かっただろう?」

 答えようにも声が出そうにない。彼の美貌がさらに近づいてきて……。

 体はかたまってしまい、頭も心も真っ白状態のわたしに、彼はあろうことか唇を重ねてきた。

「ひいいいいいいっ!」

 先程の強面みたいに情けない悲鳴を上げそうになり、必死に飲み込んだ。

 彼の唇は、ずっと重なったまま離れようとはしない。

 人前で? それ以前に口づけを? わたしに口づけを? どうして? どうしてなの?

 混乱しまくっていて、これが人生初めての口づけだということをすっかり失念してしまった。それに味もわからないでいる。

 でも、なにこの感覚?

 ふわふわと体が浮いているような感覚に、真っ白な状態から痺れているような状態にかわっていく。

 このままでいたい。

 痺れてボーっとしている意識の中、そんなふうに願ってしまう。

 だけど、唐突にそれは終わった。
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