アッシュフィールド公爵夫妻の偽りの日々と存在しない愛~あなたの愛や絆は期待していませんのでご心配なく~
「ノーラ、きみも行こう。ここは環境が悪すぎる。落ち着くまでうちですごすといい」

 コリンの声がきこえる。まだボーっとしている頭でそれをきいた。

「さぁノーラ、おいで」

 そして、クレイグの声も。

 不意に体が浮いた。

 コリンがお姫様抱っこをしたからである。

 アッシュフィールド公爵邸まで、彼はわたしをお姫様抱っこで運んでくれた。

 明日、彼はぜったいに両腕ともに筋肉痛になるに違いないわ。

 アッシュフィールド公爵の屋敷に帰ってから、バーナードに叱られた。それだけではなく、嫌味をたっぷり言われた。

 自覚がないだの無責任だの無鉄砲すぎるだの、その他もろもろ……。

 どれもこれも自覚している。だれよりもわたし自身が。

 だけど、どうしても黙っていられなかった。正義感が強いとかそういうのではない。

 ただ単純に見ていられなかったのである。

 ノーラの姿を。あのときのノーラの姿は、わたしそのものだった。
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