アッシュフィールド公爵夫妻の偽りの日々と存在しない愛~あなたの愛や絆は期待していませんのでご心配なく~

口づけのことで頭も心もいっぱい

 なんとか自分の部屋へ戻り、夜着に着替えるのも一苦労なのでそのまま背中から寝台に倒れ込んだ。

 いつもなら足を振って靴を脱ぎ捨てるけれど、いまはそれも一苦労。だから、靴のまま寝台の上に足を上げた。

 大の字になった。アッシュフィールド公爵家に来るまでお目にかかったことのない天蓋が、薄暗い中でもその存在感をアピールしている。

 脳裏に浮かんできたのは、ノーラのことでも捻挫のことでも隣家とのトラブルでもない。

 口づけだった。

 な、なんなの?

 そうと気がついた瞬間、自分で自分が恥ずかしかった。
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