Special Edition ②

「沢田、マークの宿泊先は分かったか?」
「はい、エトワールホテルのようです」
「えっ、エトワールですか?」
「はい」

エトワールホテルは、杏花の古巣(元職場)。
俺と杏花が出会った場所でもある。

隣りに座る杏花もちょっと嬉しいみたいで、にこっと笑みを俺に向けた。

俺達は今から、マーク夫妻がいるというゴルフ場に向かっている。

マーク夫人(エリー)は日本文化が大好きで、これまでも極秘に何度も来日しているらしい。
何度もアポイントを取ろうと試みても、『忙しい』の一言で一蹴されてしまい、正直諦めかけていたんだが。

「沢田」
「はい」
「俺と杏花で足止めしてる間に、例のショップからウェアを頼む」
「承知しました」
「杏花。悪いが、出来るだけ頑張ってフォロー頼む」
「分かってるわ」

秘書・沢田の運転でゴルフ場へと向かう車内。
俺は愛妻の手を握りしめ、戦場へと向かう闘志を鼓舞する。

マークは偏屈者としても有名で、イベントをドタキャンすることもしょっちゅう。
けれど、彼の才能は抜きん出ていて、世界中からその才能を買われている。

数年前から手掛けているプロジェクトに、彼の感性と判断力を仰ぎたく、プロジェクト始動と共に彼にアタックしているのだが、未だに一度も会ったことが無い。
もちろん、電話やメールでは会話しているが、やはり直接会わないことには……。

一応、弊社の意向は逐一伝えてはいるが、未だに色よい返事を貰ったことが無い。
今回も空振りを覚悟に決戦の場へと向かうことにした。

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