Special Edition ②
「どう?出産後すぐにってわけじゃないし」
「……うん」
「する方向で進めていいか?」
「……うん、じゃあ、お願いしようかな」
テーブルの上に置かれている彩葉の手に、郁はそっと手を重ねた。
人生は時として迂回すべき出来事が突然起こったりする。
けれど、迂回したからこそ、出会える幸せもあるはずだから。
例え少し苦労を伴う道のりであっても、その道中を目一杯楽しめばいい。
人生は引き返すことの出来ない一方通行。
航路と同じだ。
飛行プランが変更したとしても、それはそれで楽しめばいい。
だからこそ、その一分一秒を大事に過ごせば、素敵な想い出になるのだから。
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七月上旬。
梅雨の中休み的なカラっと晴れた金曜の早朝。
ピピピピッ、ピピピピッ。
静寂を打ち破るように無機質な音が寝室に響く。
郁は素早く手を伸ばし、アラームを止めた。
自身の体に寄り添うように寝ている彩葉を寝起きで捉え、ホッと胸を撫で下ろす。
最近、少しずつお腹がせり出して来て、寝るのもしんどそうにしている。
更には前駆陣痛と呼ばれるものがあるようで、時々顔を歪めるほど痛みのような症状があるらしい。
男には分からない。
痛みを分かち合うことも替わることも出来ないのだから。
せめて、不安を取り除くために寄り添うことくらいしか出来ない。
無事に出産を終えるまでは……。
彩葉を起こさないようにそっとベッドを出て、ウォークインクローゼットでジョギング用のウェアに着替える。
体力づくりのために毎日欠かさずしているジョギング。
三十五歳という決して若くない歳で父親になるのだから、基礎体力をつけておかねば……。
着替えを済ませ、寝室を出ようとした、その時。